リーダーにとって「拘り」は組織運営に重要なものである一方、好き嫌いのような「拘り」は大きな阻害要因となります。
リーダーが組織の能力向上、安全の確保、目標を達成するためにみんなで決めたルールの厳守など、組織全員が確実に行わなければならないことは、どんなに急いでいても、疲れていても守らせ、出来るまで実施するという内容は、プラスの「拘り」といえます。
自衛隊では、『基礎動作の確行(かっこう:確実に行う)』という用語があります。基礎動作という幅は広く、自衛隊員は必ずできなければならないこと、必ず行わなければならないこと、という位置付けにあります。
簡単なことではありますが、常に実行しなければならないとなるとなかなか厳しく面倒なものとなります。
例えば、敵が存在するかどうか不明な場所では、建物を遮蔽物として安全を確保している状態から、前進するため前方の建物へ移動する時、前進している間に適から襲撃を受けた場合、対応する援護要員を指定していつでも援護射撃ができるようにすること、前方の建物へ移動する経路を確認すること、前進間に敵から射撃を受ける可能性のある建物の状況を確認すること、待機している間、チームメンバーに適の方向を重視しつつ、全周の警戒を行う動作は、基本中の基本となります。
この動作を1回1回確実に行うには、チームワークと訓練を積まなければ迅速に実施することはできません。
また、毎回行うことは結構な手間であると捉えやすく、毎回きっちりとやる必要もないと動作を流しがちになります。
そのため、実際の戦場ではない訓練の場ではどうしても疎かになり、省略されてしまうことがあります。海外へ行かない限り、実戦の場面が発生することもありません。
しかし、この動作は、敵に見つからず、安全を確保して行動する基本であり、実戦になれば毎回必ず行わなければならないものとなります。
指揮官が、『基礎動作の確行』に「拘り」、徹底的にいつ如何なる時でも行わせるようにするには、指揮官の強い意志が必要となり、習慣化するまで続けることが必要になります。
隊員サイドからすれば、実際の戦場でもないのに、手間のかかることを行い時間がかかってしまい、訓練効率が悪く省けば違う訓練を行う時間も確保できると考え、本当にこのようなことが必要なのかという気持が強い状態です。
この状況で指揮官が部隊・隊員に『基礎動作の確行』を行わせるために、拘りを持つということは非常に重要となります。これを緩めてしまえば、全てその他のものも骨抜きになってしまうからです。
『拘り』は、完全にできるまで行うという指揮官の意志となり、リーダーシップを支える一つとなります。
反対に、部隊の能力向上に関係ないような指揮官の好き嫌いの内容や趣味の拘りを「拘り」として部隊・隊員に対して行わせる、従わせるようにした場合、大きなマイナスとなり、指揮官としての資質を疑われることになります。
プラスの拘りとマイナスの「拘り」にもなる「もろ刃の剣」となる拘りを如何に使いこなすことができるかが、リーダーシップ発揮に重要であるといえます。
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