人材育成に長けている陸上自衛隊の陸曹

人材育成に長けている陸上自衛隊の陸曹

 

陸上自衛隊の陸曹は上手い人の育て方が身についている

 

海上自衛隊や航空自衛隊は、艦艇、航空機やミサイルの性能が直接戦闘の優劣に影響を与えます。兵器性能の善し悪しはとても重要な位置付けにあります。陸上自衛隊は、兵器性能と同等かそれ以上に隊員の能力が大きく戦闘に影響を与えます。陸上自衛隊員は、近接状態で地上戦を行うため、個々の隊員の戦闘能力の優劣が直接戦闘の結果を左右します。

部隊を支える中核となるのが、下士官である陸曹・海曹・空曹のメンバーです。陸上自衛隊では、陸曹の任務に対する使命感、戦闘能力、チームワーク、人材育成能力が部隊の強さを左右します。

陸上自衛隊の下士官である陸曹は、新隊員教育、膨大や幹部候補生学校の助教として幹部の教育を行ったり、各職種の特技教育の教官・助教として幹部を始めとして新隊員に至るまで人材育成に関わっています。知らず知らずに陸曹は人を育てることに関して高いスキルを持つようになります。

私も初級幹部時代、多くの陸曹から陸上自衛隊の普通科中隊とはどんなところなのか、隊員の扱い方、戦闘技術のイロハを沢山教えて育ててもらった一人です。ほんの一部ですが、私の出会った素晴しい陸曹を今回紹介したいと思います。

 

 

息子が陸上自衛隊へ入隊したお母さんの感動

 

栃木県で採用と就職援護の仕事をしていた時、自衛隊に入隊を進めたり、就職を応援するような相談員という人を市町村長さんと委嘱をするため、市役所や役場へよく行きます。年度明けすぐ委嘱式をするのが普通なのですが、5月の下旬に急きょ相談員になりたいと熱望するという女性がいて、珍しいなという程度の気持ちで町役場へ到着しました。

いつも通りに、町長さんと連名で委任状を渡し、雑談をした後、相談員一人だけなので町長さんの部屋で昼食会をすることになりました。この相談員は、4月に息子さんが陸上自衛隊へ入隊したお母さんで、募集相談員の高齢化が進んでいるため、若い相談員は、ありがたいなと思って食事をしていたところ、何か話したくてもじもじしていたお母さんが急に熱く語り始めました。

五月の連休に息子が帰ってきて、私に言うんです。

「お母さん、僕は今欲しいものが三つあるんだ」

というので、「もう給料を貰えるんだから自分で買いなさい」と私が言うと、給料では買えないんだと答えるので、一体何をあなたは欲しいのと、そんなに高いものなの?と聞くと「違うんだよ。物ではないんだ」と息子が話し始めたそうです。

何がほしいのと聞くと、

「『勇気』と『強い心』と『優しい心』の三つが欲しいんだ」と答えたそうです。お母さんは予想外の答えが返ってきたので、びっくりしながらも「何故なの」と聞きくと、「僕が入隊して教育を受けている新隊員教育隊で新隊員の面倒をみたり、指導してくれる班長がいて、あの班長の持っている『勇気』と『強い心』と『優しい心』が欲しい」と言い、「あの班長のようになりたい」と話したそうです。

この話を聞いた瞬間、お母さんはこんな短期間に息子の心を掴み、成長させ、感化できる組織と若い班長に感激し、すぐに町長に電話をかけて「こんな素晴らしい自衛隊へ多くの若い人を紹介してみたい」と話したところから、募集相談員への熱意が伝わり委嘱式が行われたということを知りました。

「私は行動力があるのでやりますよ」とお母さんは話し、町長さんは、「いい話ですね」と言い、私は、陸上自衛隊の陸曹の素晴らしさを改めて感じました。このお母さんの募集への取り組みと情熱によって、多くの若者が自衛隊へ入隊しました。

「勇気」と「強い心」と「優しい心」が欲しいんだ。五月になるといつも思い出します。

 

私を育ててくれた陸曹達

 

小隊長なりたての何もわからない状態で、毎日布団に入るとパタンキューとなる生活をしていると、「どうせ、酒ばかり飲んでいてまともなものも食べていないだろうから今夜鍋を食べに来ないか。」と結婚している陸曹が、家に呼んでくれました。

酒もあまり強くないのと飲み方もよくわからない状態でいつも帰りは奥様に送って頂くか、泊りになってしまうパターンを各家で繰り返していました。「こんな若いのに幹部なんだよ」と奥様にいつも紹介されながら、寝てしまうまでの間、「陸曹はこんな環境を作ってもらったらもっと活躍できるんだ」、「これはやっても無駄なのに続いているのはおかしい」とか、「訓練でこのようなことをすればかなり強くなれる」等々、問題認識や改善の方向をいっぱい話してくれます。「自分はぺいぺいの末席の幹部だから、そんなことは言われてもできないよ」と答えながら、美味しい鍋や手作りの料理を頂いていました。

レンジャー教官の家に行って、まむし酒やクコ酒、朝鮮ニンジン酒を飲ませてもらった時は、アパートに帰って目を閉じても頭の中に強烈なライトがついている感じで全然寝れない状態になる経験をした日もありました。

そのうち、他の中隊の陸曹も呼んでくれるようになり、普通自分の中隊以外の幹部は呼ばないのにと思いながら、「ここをこうしてもらうといいんだけどね」、「日の当たらない地味な仕事をしている者もよく見てほしい」と色々な話を聞き、「自分は末席の幹部です」と言うのに、話したいから話しているんだから聞いていればいいと言われる夕食会が続きました。

 

 

鍋の会

 

流石の鈍い私でも、どうして他中隊の陸曹までが、家に呼んでくれるか不思議に思い始め、「どうして話してくれるんですか」と聞くと、小隊長は何も知らないからという感じで、なかなか話してくれません。

ある日酔って寝ないように、頑張って陸曹をどんどん継いで酔わせて、聞いてみると、「陸曹はどんな幹部が中隊に来てもそれに合してやらなければならないものなんだ」、「将来偉くなった時に、こんな陸曹の声を覚えて少しでも良くしてもらいたいんですよ」、「もう少し経つと小隊長も偉くなり、こんな話ができなくなってしまうものだから」と話しました。

他の夕食会に呼ばれて確認すると、同じ内容であることがわかりました。「いつになったらできるかわかりませんよ」と答えたら、「約束だよ」と言われました。今までの陸曹の話が、心に溶け込んでいくのを感じました。

 

 

「約束は守っているよ」

 

連隊長時代にパレードのため、出発まで待機をしていると、「小隊長!久し振り元気か」と声をかけられました。振り向くと小隊長の時によく家に呼んでくれたり、飲みに行ったりしていた「熊谷(クマ)」が、頭が白くなり、ニコニコして近づいてきました。

「クマ年取ったな」と言うと「小隊長も少しはまともになったな、おれも最先任上級曹長にいつの間にかなっちゃったよ」とクマが言うので、「クマが最先任になるなんて、驚きだな。それなりに頑張ったんだ」と言うと、「小隊長ほどではないよ」と楽しい雑談していると、連隊長、パレードの時間ですと言われて出発の時間になりました。

別れる時、クマへ「約束は守っているよ」と言うと「覚えていたんですか。ありがとう」と言われました。なんだかこれ以上喋ると約束と言う言葉が薄れる感じがして、「クマまた会おう」とクマの顔を見ずに言いながら、心の中で、ありがとうは、俺が言う言葉だよ、色んなことを教えてくれてありがとうございましたと頭を下げました。後ろから、「小隊長も元気でな」とクマの声が聞こえました。

こんな陸曹達がいる陸上自衛隊は素晴しいと思います。

 
 
≪次のブログも参考にしてお楽しみ下さい≫
 
陸曹が幹部になりたくなる部隊、本物の強さの追求と人材育成
 
上級陸曹として指揮官を如何に補佐すればいいか
 
間違いやすい「光」と「影」の関係
 
「私の戦闘技術を陸上自衛隊に伝えることが私の愛国心です」
 
ガンハンドリングの基礎 -この銃は安全ですか-
 
人生・仕事への姿勢
 

追記

「小隊長の約束」
陸曹の部隊に対する熱い思いと若手幹部育成という重要な役割を果たしている活躍を知ることができます。

新隊員が今欲しいものがあると母親に話したものとは
陸上自衛隊の陸曹の心温まる人間性と若者とその母親の心を動かした行動を知ることができます。

こちらも陸上自衛隊の陸曹の素晴らしい部分を知ることができます。参照してお楽しみください。

 

 

 

 

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二見龍レポート#2 コンバットメディックの照井資規、弾道と弾丸を語る
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二見龍レポート#1 ネイティブ・アメリカンの狩りの技術を伝える川口拓氏との対談
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1 Comments

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