戦闘に必要な技術・体力を練成する40連隊のレンジャー養成訓練と体育訓練

戦闘に必要な技術・体力を練成する40連隊のレンジャー養成訓練と体育訓練

 

 

15:00にただのジョギングを始める体育で強くなるか

 

北九州の小倉に所在する第40普通科連隊に勤務している時、週に2から3回体育の時間がありました。体育は、15時から開始し軽いジョギングと筋トレを1時間弱行った後、身体の手入れを済せして1日の課業を終了する「終礼」に参加することが通常です。訓練支援や作業のため、中隊に人があまりいない時なども、整備をしたり、残った隊員は体育をしている状態でした。

2002年頃は、どこの部隊でもよく見られた光景です。

有事に備え、隊員の体力練成を行い鍛えておくことは重要ですが、戦闘に必要な体力と精神力の練成に結びついているか、残った人間や余った時間をジョギングなどの体育に使ってしまうことが本当に部隊を強くするかどうか疑問がありました。

若い隊員の懸垂を見ると数回もできない隊員が思った以上に多いことに驚きます。防大出の幹部候補生も運動部の主将でしたがあまりできません。

「学生の時懸垂はあまりやらないのか」と聞くと、
「そんなにやっていません」との答えに変わったなと感じました。

学生時代、懸垂を40回行うと体力検定の懸垂の部分が満点になるので、意地でもやり切って満点を取ろうとしていた自分達とは変わったと思ったからです。

懸垂をやる時は、競泳用の小さい水泳パンツを履いて体操服を着ます。懸垂をやる時は、軽ければ軽いほど上がりやすくなるため、靴、靴下、体操服全てを脱ぎ捨て、競泳用の水泳パンツ1枚でぶら下がり40回を目指したのとは時代が違うなと感じます。

しかし、若いメンバーは懸垂が弱い。

腹筋と背筋が弱いところが懸垂にブレーキをかける原因ではないかと考えました。

 

 

多過ぎるレンジャー養成訓練での脱落者

 

レンジャー養成訓練は、本格的なレンジャー養成訓練に入る前に、身体を作るため準備訓練を行います。
準備訓練は、通常1カ月弱行い、意志の弱い隊員はこの時点で脱落をしたり、身体を痛めて運動ができなくなると原隊復帰(訓練を中止し元の部隊に戻されること、適性がないと判定を受けたことになる)します。

腹筋と背筋運動の比重が多くなると脱落者が出てきます。重量のあるリュックと装具をつけて行動するには、腹筋と背筋がしっかりできていないと持ちません。

32名で準備訓練を開始しましたが、レンジャー養成訓練開始までに残った隊員は、わずか12名になっていました。

自分が40連隊に勤務した初年度のレンジャー養成訓練終了者は、6名が最後の帰還式に参加をしましたが、そのうち3名が医務室から装具をつけさせ、なんとか帰還式に参加させた状態でした。

この年、レンジャー訓練のための準備訓練と養成訓練について抜本的に見直しを行いました。

この見直しと連携し、体育の実施要領を訓練と連動させるものに切り替えました。

 

 

レンジャー訓練は、何が問題であったのか

 

検討の目的を「40連隊に戦闘技術に負けはない」を達成するため、現場の考えていること、現在の状況、どうすればもっと強くなれるかに設定しました。

多くの意見が出た中で次の内容が浮かび上がってきました。

レンジャー準備訓練と養成訓練は、

「ただ根性をつけるための苦しませる運動になっていないか」
「寝させず飲食させず敗残兵のようなボロボロの状態で想定訓練を行い必要なレンジャー技術を身に付けてさせていないのではないか」

この視点でレンジャー教育隊のメンバーや主要陸曹に検討し、多くの話し合いをすると、次の問題点が見えてきました。

今迄行ってきた訓練内容を伝統として受け継ぎ強い隊員を作ろうとしてきたが、厳しくすると脱落者が多くなるが、40連隊を強くするには必要な事である。

ゆるい訓練内容で育成されたレンジャー隊員とは、自分達レンジャー(レンジャー訓練の助教は、戦闘時、レンジャー行動を行う要員になる)は一緒に戦いたくない。

「連隊のレンジャー行動で自分達レンジャーと一緒に戦う要員を選抜しているため、弱い隊員を育成したくない」という意見が多くありました。

そして、枠組みとなる訓練規則で定められた内容に基づき訓練を行うと、今迄の形になってしまうため、担当レベルでは大きく変えようがないことがわかりました。

また、レンジャー訓練隊のメンバーは、連隊を強くするため、彼等なりに多くのことを考え、できることを改善していたこともわかりました。

 

 

レンジャー訓練を実戦的なレンジャー養成訓練へ

 

レンジャー養成訓練は、敵が支配している地域への潜入、偵察、襲撃、爆破などの技術を習得し、レンジャー活動を行う基礎を身に付けます。

完全武装で総重量30㎏から50㎏の荷物を担ぎ山中を踏破し、偵察行動や破壊行動を行う「想定」と呼ばれる訓練を何回も行います。
潜入活動に2日間かけている間に、水や食べ物を制限され、睡眠をとらず過酷な状況に追い込みタフな精神と肉体を作り上げます。

潜入行動で身体はボロボロになってしまい、潜入拠点での体力回復もほとんどないまま、まるで敗残兵が撃ってくださいという感じでヨレヨレの状態で襲撃を行う状態になります。

襲撃を成功させることではなく、なんとかこの想定を終了し卒業まで我慢しようという感じです。一番必要な偵察、襲撃、爆破はただ動作を行っているだけで何も身に付いていません。

潜入拠点に入ったら、襲撃地点の偵察と自在に動ける体力へ戻す必要があるところを行っておらず、精神を鍛えているだけの訓練になっていました。

想定訓練のうち、精神を鍛える訓練は半分程度にし、戦闘技術を徹底的に練成して身に付ける訓練を半分にし、襲撃訓練などは攻撃や襲撃行動が成功しなければ何回でも、できるまでやらせる内容に変更しました。

レンジャー訓練隊のメンバーにも、何度も話し合いを続け内容を固めました。

精神を鍛える訓練は従来の厳しさで臨み、窮地を自力で切り開き、負けない折れない心を作り上げ、襲撃、爆破訓練については、野外、室内、CQBを含み、できるまで徹底的に隊員に戦闘技術を身に付けさせることにしました。

敗残兵の劇はやらせない、やってはいけない内容へ変更しました。

想定数も訓練規則の範囲内で整理統合することにより、期間は長くなっても総定数を少なくし、訓練内容を大幅に改善しました。

脱落者発生の原因となる、想定と想定の間に身体を実質的に休ませる時間がない部分も改善しました。
想定訓練で身体に大きなダメージを受けたまま、次の訓練に参加するため、次の想定訓練開始の潜入時点でもうボロボロの状態になっているからです。

レンジャー養成に参加している隊員の健康管理と体力管理を考慮し、訓練想定と訓練想定の間隔を空け、体力を回復できるようにしました。このため、少し養成訓練期間が長くなりましたが、実戦的な訓練を徹底的に追求できる環境になりました。

 

 

レンジャー訓練に挑戦する心意気を尊重する

 

重量物を担いで行動している間に潰れてしまわない身体を作るため、レンジャー準備訓練の期間を2倍近く延長し、腹筋と背筋をレンジャー訓練に耐えられる身体を作り上げるようにしました。
短期間では、十分な身体を作るには短く、準備訓練機関に無理をして原隊復帰しないようにしました。

また、レンジャー養成訓練に参加する男達の意気込みと男気を尊重しました。レンジャー訓練で体力的、精神的に限界状態になり訓練から離脱し、原隊復帰した隊員は、元の部隊に帰ると「レンジャー崩れ」と周りから言われる環境がありました。
ひどい部隊では、「あいつは、レンジャー訓練に耐えられなくなって帰ってきた奴だ」と言ってダメレッテルを張ります。

普通科連隊以外ではレンジャー養成訓練ができる要員が十分集まらないため、戦車大隊や偵察隊、施設大隊等からレンジャー養成訓練に隊員が参加しています。

各部隊長が、レンジャー養成訓練を視察に来た時、必ず話した内容です。

「レンジャー訓練を希望しチャレンジした隊員を高く評価して下さい」、
「周りのメンバーがレンジャー訓練の厳しさに尻込みしているところで、厳しい道へ自ら挑む心意気は部隊の宝物です」、「原隊復帰しても、部隊で高く評価すると部隊長が皆に話してください。レンジャー訓練に参加する隊員が増加し、部隊が強くなります。是非お願いします」

という内容を各部隊長に話します。

数か月後、たまたま他部隊に訓練で寄った時、レンジャー養成訓練で原隊復帰になった隊員が、飛ぶように近づいてきて、「原隊復帰した時、部隊長が私の心意気を誉め見本とすべきであると言って下さり、みんなの見る目が変わりました。ありがとうございます」と生き生きとした表情で話してくれました。
「来年トライするの」と聞くと、「やる気のある仲間を誘いレンジャーを狙います」と返ってきました。

 

 

戦闘技術の向上を重視した体力練成、体力維持は自分の時間で

 

レンジャー準備訓練の期間を今迄の2倍にしても、強い身体を作り上げるには、期間が不足しているため、通常の連隊の体育訓練で腹筋と背筋を中心とした体育訓練により練成する必要があると考えました。

また、若い隊員の懸垂のできない状態や腹筋と背筋が弱く身体自体が弱くなっていること、車両化して徒歩行進訓練が少なくなり、重量物を背負った移動が弱くなったことの改善と、しっかりした身体を作り集中力と我慢強さを向上させるため、体育訓練の内容を大幅に変更しました。

ジョギングで終始することなく、重量物を背負い長距離移動できる基礎体力、戦闘に必要な体幹を作りなど、戦闘に必要なメニューへ変更してバランス良く、そして腹筋と背筋をしっかり作るようにしました。

トレーニングは、1時間とし、体育訓練終了後、ガクッと膝から崩れ落ち四つん這いになる程全力で力を惜しまないようにするトレーニングを行います。

体育学校の体育過程を出た連隊のインストラクターが、隊員の年齢と能力別に区分し科学的に身体を追い込む体育訓練を行ないます。

電話番以外全員が実施する週間予定表で命ぜられる体育訓練とし、体育訓練は、週3回行います。
特に、25歳以下は、内容を厳しく設定して体を作り上げる内容にしました。

また、体育訓練以外で自分が必要とする運動は、自分の時間で行うようにしました。
この結果、訓練時間の確保ができるようになりました。

 

 

新隊員の変化

 

新隊員との懇談で、何かきつかったり、苦しいことがあるか聞いてみると、言いたいことがあるのに、なかなか言い出せず新隊員同士が顔を見合わせているので、どうぞと言うと、
「体育訓練は、強くなるために必要なのは皆理解できるのですが、体力ができていない私達にとって、インストラクターが行う体育が厳しくて、苦しくて泣きたくなります」と話してくれました。

弱音を吐かない新隊員でも泣きが入っているのが確認できました。

強くなりたい欲求があるのと本気で取り組んでくれているのに感謝をしつつ、

「この体育をしている者としていない者とではどちらが強いのか」と問うと、「この体育をしている者です。でも身体が疲れてしまい外出もできません」と情けないことを言っていることを恥じながら話しているので本当に辛いんだなとわかります。

「1か月も我慢していれば、慣れてくるから大丈夫だよ。これから身体がみるみる強くなるのが自分でわかるから、それを楽しみにやったらいいよ」

と話すと、少し和らげてくれるかと思っていた答えと異なっていたようで、新隊員の目が点になっていました。

3か月が過ぎると、新隊員の身体が見ただけで変化しているのがわかるようになり、あの時の泣きは何処に行ってしまったのかという感じになりました。

若く回復も早く、いつの間にか、時間がある時は身体を自分達で鍛えるようになっていました。

体力ができてくると、自らがやるという気迫のある体育訓練に進化していきました。

半年が過ぎると、身体が強くなると我慢強くなり、精神面も強くなっていくことも実感できるようになりました。基礎体力と精神面の強さができてきました。

 

 

次の年のレンジャー訓練の変化

 

レンジャー準備訓練は2倍の長さになりましたが、参加する隊員は70名を超し、多くの隊員が厳しく長い準備訓練を乗り越えていきました。
準備訓練終了後、養成訓練への参加者希望者は36名いました。

レンジャー養成訓練は、隊員はボロボロの敗残兵にならず、強い精神と体力を身に付け、戦闘技術に関する訓練は比べ物にならないほど充実し、昨年よりも実質的に厳しくなったレンジャー養成訓練を24名の隊員が終了しました。

強い部隊を作るための基礎が出来上がってきました。

 

 

 

 

【kindle本が出ました】

 

二見龍レポート#2 コンバットメディックの照井資規、弾道と弾丸を語る
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二見龍レポート#1 ネイティブ・アメリカンの狩りの技術を伝える川口拓氏との対談
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40連隊の見えない戦士達: 自然をまとう「スカウト」戦闘技術
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本書は、実戦で強烈な威力を発揮する「スカウト」の戦闘技術に触れた瞬間、根底から意識が変わってしまった隊員たちが、戦場から生き残って帰還するために、寸暇を惜しんで戦闘技術の向上へのめりこんでいく姿を記録したものです。

そして願わくば、ミリタリー関係者だけでなく、日々、現実社会という厳しい戦いの場に生きるビジネスパーソンやこれから社会へ出て行く若い人たちに、読んでいただきたいと思っています。スカウトという生き残り術を身につけることは、必ず日々の生活に役立つと私は信じています。

 

 

 

40連隊に戦闘技術の負けはない: どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準
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『40連隊に戦闘技術の負けはない―どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準―』
に登場する隊員たちが訓練を通じ成長していく姿は、若い人達に限らず、人材育成全般にも多くのヒントがあると思います。
人生・仕事への姿勢について、ミリタリーの人に限らず、多くの人達に読んで頂ければと思います。
読み方は自由に、肩肘張らず、気楽に読んでいただき、志を持ったインストラクターと若い隊員たちの記録を堪能して頂ければ幸いです。

 

 

 

オオクワガタ採集記: 朽木割り採集・灯下採集・樹液採集の世界
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オオクワガタに出会い、採集やブリーディングを始めて、いつの間にか20数年が経ってしまいました。
日本各地のオオクワガタの有名ポイントで多くの仲間と出会い、採集をした楽しい思い出やズッコケ採集記は私の宝物です。
オオクワガタを通じ、色々な経験や学びがあり、人生が豊かになった感じがします。そんなオオクワガタ採集記をお楽しみ下さい。

 

 

 

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マット飼育は、菌糸ビンのように簡単に大型を作出するのは難しい飼育法ですが、綺麗な個体を得ることができ、安価で多量にオオクワガタを飼育できることが魅力です。
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