陸上自衛隊は銃剣道を訓練することによって戦闘能力を向上できるか

陸上自衛隊は銃剣道を訓練することによって戦闘能力を向上できるか

 

 

陸上自衛隊で盛んにおこなわれる銃剣道

 

20年以上前から、装備や戦い方が変化している時代に銃剣道の訓練を行う必要があるか議論されてきました。任務が多様化し現実に対応するするために『任務必成』を追及する人達と、部内外に深く広く根が張っている銃剣道を推進する関係者との間の議論です。

両者は、現代の戦闘において銃剣道が必要な状況は稀であり、現実的で難しくなった任務に対応するため、陸上自衛隊は教育訓練を実際的なものにしなければならないところで一致はしています。

しかし、部隊の現場はどうでしょうか。

長い間、銃剣道一本で生きていた隊員や銃剣道を愛するOB、部隊の伝統的な競技会、自衛隊のもっとも得意とする武道として部隊と地域に根付いている現実があります。

そして、現在、陸上自衛隊は、銃剣道を訓練として継続し、部隊同士で競う銃剣道競技会を毎年行っている状態です。

何故、現在も、陸上自衛隊は銃剣道を続けているのでしょうか。

 

 

銃剣道の強い隊員は模範隊員

 

今から30年以上前、陸上自衛隊に入隊すると全隊員が銃剣道をやっていました。銃剣道の強い隊員は、昇任も早く、発言力も与えられ、部隊の中核的な隊員して中隊を牽引します。

『銃剣道が強い』=『自衛隊生活が有利になる』ため多くの隊員が、日々の鍛錬と工夫を重ねました。結果として、トップクラスは、強さとともに、人間的にも成長しました。

競技会も盛んに行われ、連隊内競技会や師団大会で部隊を代表して戦う選手に選ばれるだけで一目置かれ、他部隊に勝利したならばヒーローとして扱われる時代でした。

自分も初級幹部として、銃剣道の防具を購入し、古手の陸曹にボロボロになるまで教えてもらう日々を過ごしました。

武道としていいとは思いましたが、現代の戦闘に銃剣道は役に立たないなと感じつつ、中央勤務となり第一線部隊を後にしました。

 

 

師団の3部長になり驚愕する

 

その後、陸幕勤務を経て、13年振りに第一線部隊の師団の3部長として、第一線部隊に戻り唖然となったことがありました。
それは、連隊同士が勝利を目指し戦う師団銃剣道大会でした。

選手は、1士、陸士長、初級・中級・上級陸曹、幹部に区分し、なんと!27名で勝負を競います。長い試合です。その間、各連隊は、力の限り選手を応援し続けます。

異様な盛り上がりを見せる銃剣道競技会を見て思ったことは、27名の選手を選出するため、部隊・隊員は、銃剣道にどれだけの人員と時間を投入してきたのかということです。

 

 

部隊・隊員の訓練レベルを判定する「目」があるか

 

各部隊しっかりした練成訓練はできているか、そもそも部隊は練成訓練の時間を確保できているか、又は確保しようとする意思はあるか、疑問として大きくが浮かび上がりました。

その疑問はすぐに解けました。
銃剣道の訓練を一般の戦闘訓練よりも優先して行っている現実にすぐに触れる機会があったからです。

更に、第一線部隊は、引き続き、突撃訓練を続けていました。

陸上自衛隊の陣地攻撃では、陣地に突入後、巻き藁で作った俵や標的へ銃剣を何箇所か突き敵を倒し通常、訓練は終了となります。

突撃している状態を見ると、一見勇猛果敢で大きな声を出して突入するので強い感じがします。

隊員が丘陵の頂上を目指し、数10名が横一線となって突撃していく光景は、見ていて圧巻に見え、なんだか頑張ってやっているなという印象を与えます。

隊員が横の線を崩さず突入していると、「きちんと横一線に隊員が展開していてよろしい」と幹部や訓練の評価を行う訓練補助官は評価をします。

そして、突入行動を視察している部隊長は、「迫力のある攻撃だ。隊員はよく頑張っている」
と褒めたりします。

現代戦では、敵の火点が残っているだけで、突撃部隊は、あっという間に倒されてしまうのが現実です。

部隊・隊員に、火力で敵を叩き潰してから敵陣地へ前進するように教育しても、敵の陣地の近くに来ると、突撃と銃剣刺突をしてしまう癖が長い年月をかけて頑固にしみ付いています。

「どうしてすぐ、無理に突入するのか」確認すると、

「部隊長が褒めているのに、何で突撃が悪いんだ」と反論します。

リアリティーのある訓練をしていないため、漠然と感じていても、見直す者はいません。

このため、この癖がとれません。

 

 

指揮官、幹部の役割の意識改革と練成訓練環境の改善

 

部隊の士気・団結を向上させる手っ取り早い方法は、競技会です。競技会に勝利するため、部隊は一丸となって突き進むため、服務事故を起こしたり、和を乱すことがないように隊員同士が気を付けます。

銃剣道は、部隊に深く広く根が張っているので、特に競技会に適しているといえます。

幹部は、競技会にすれば、陸曹以下が積極的に行動するため、出番があまりありません。

幹部は、練成訓練を進めるのではなく、幹部室で書類作成や管理業務を進める状況です。

地道に基礎訓練から、練成訓練を積み上げ隊員と部隊の訓練レベルを判定することは、競技会に比べると、手間がかかります。

競技会が近くなると、訓練へ回される隊員は、選手の選抜から漏れた隊員です。
競技会に参加する選手のようなヒーローにもなれず、訓練は、競技会から外れた隊員が行なうものというイメージがあります。

このため、隊員自身の練成訓練に対するモチベーションを維持させることは、かなり難しくなります。

また、訓練上の制約もあります。

演習場が使える日も限定しており、競技会で人が抜け訓練人数が揃わなかったりすると整備をやりながら時間を過ごすことになります。

モチベーションを維持しながら練成訓練を続け、その成果が出てきても、競技会が近づくと吹き飛んでしまいます。

部隊は競技会一色となり、訓練は停止状態となるからです。

銃剣道などで活躍した隊員は部隊で輝き、表彰されます。

訓練を積み上げ、本物の強さを目指そうとしていた隊員は、今迄の頑張りが馬鹿らしくなってしまいます。

 

 

リロードが根付かない

 

射撃により弾を撃ち尽くすか、残弾が残り少ない場合、弾倉交換を行うのが常識です。

「リロード」と仲間が叫んだら、その間リロードをしている隊員を他の隊員がカバーする必要があります。弾倉交換時は弾が出ないため、弱点となるからです。

戦闘前に、残り少ない弾倉から、新しい弾倉に交換し、戦闘間弾切れでリロードをしないようにしなければなりません。

当たり前のことです。
全隊員ができるまで訓練をする必要があります。

しかし、このような訓練は進んでいません。

この戦闘技術と至近距離射撃能力を練成する必要があるにもかかわらず、練成訓練が不十分なため、基本教育で学んだ範疇からなかなか抜け出せません。

敵陣地突入が近くなると、弾を連射で撃ち切るとリロードせず、白兵戦、銃剣格闘へ持ち込もうとします。

現在の自動小銃は、弾詰まりも昔のように起こりにくく、銃剣で突っ込めば、簡単に小銃弾で倒されてしまいます。

更に、防弾ベストがあり、銃剣が刺さるポイントは極めて限定されます。勝ち目はありません。

 

 

練成訓練を見直し、立て直す時期

 

銃剣道をはじめとする競技会だけではなく、現在、陸上自衛隊は、北朝鮮・中国への対応、西日本を重視した体制の変換、新装備の導入、現実的なPKO等、やるべきことが山積みの状態です。

そして、部隊の戦闘力を向上させる練成訓練が危機的な状態陥りそうな今、幹部、部隊長は、速やかに練成訓練の見直しを進める必要があります。

これには、まず、幹部の意識改革と幹部の能力向上が必要不可欠となります。

そして、優秀な陸上自衛隊の陸曹が本気となって訓練に取り組める環境を作っていくことが重要となります。

この時、最先任上級曹長は、現場を変え動かす重要な役割を果たすと思います。

頑張って下さい。

応援しております。

 

 

 

 

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人生・仕事への姿勢について、ミリタリーの人に限らず、多くの人達に読んで頂ければと思います。

読み方は自由に、肩肘張らず、気楽に読んでいただき、志を持ったインストラクターと若い隊員たちの記録を堪能して頂ければ幸いです。

 

40連隊に戦闘技術の負けはない: どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準
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