二つの部隊が自由に戦闘できる環境を設定して行う戦闘訓練を「自由対抗方式」といいます。空砲の発射音とともに、銃からビームが発射され、頭と身体に装着している受光装置が命中しているかどうかを判定します。(通称:バトラー)それまでは、人員の数で判定したり、小銃は1点、戦車は50点というように火力点数を設定しその点数で審判員が判定を行っていました。バトラーによって実戦に近い状況で戦闘訓練が行うことができるようなりました。
バトラーを使用し、迫撃砲射撃による砲弾の判定を現地審判員が行う戦闘競技会を師団で企画しました。
トーナメント方式で小隊同士が戦い勝者を決める競技会です。この競技会の勝者が、師団で一番強い小隊となります。
「A小隊全滅、戦闘終了」、小高い台上に設置したアンテナだらけの第8師団戦闘競技コントロールセンター内の戦力分析幹部が、センター内の統裁部要員に戦い終了の宣言を行いました。
「小隊全滅なんてことが本当にあるのか」、戦車1両、対戦車ミサイル1個分隊を配属された同じ戦力の小隊同士が戦闘を開始して、1時間45分後のできごとです。配属部隊を入れると50名近い小隊が何故短時間に消滅してしまったのか、さらに驚きだったのは、B小隊の損耗はほとんどないのです。この戦闘は、図上の戦いではなく、実際に普通科連隊の隊員が、演習場で実戦に近い状態で戦うことを可能にした状態での結果でした。
通常の陸上自衛隊普通科の戦闘では、同じ戦い方をするため、大きな損耗の差は出ないと考えていたからです。
戦闘が2時間のため、僅差の勝負になると予想し、勝敗を決定する方法を詰めて競技会に臨んでいたのですが、大きく予想が外れてしまいました。
これは、2001年4月に北熊本に所在する第8師団司令部の作戦・運用と教育訓練を担当する第3部長の時の経験です。
「A小隊全滅、戦闘終了」のアナウンスを聞いた瞬間、戦闘競技会開始前、当時12連隊長の吉田1佐とすれ違った時に交わした言葉が、頭に浮かびあがりました。
「うちの戦い方は、今回破られないと思うよ」という言葉です。
「戦い方」、「破られない」の単語がぐるぐる頭の中で回ります。
「戦い方」とは、教範に書かれている戦闘要領ではないのか、小隊独自の戦闘要領を考えたのか、「破られない」とは勝利が戦う前に見えているということです。
同じ戦いをすると思って企画した自由に両軍が戦う「戦闘競技会」で、鹿児島県の国分に所在する第12普通科連隊が、小部隊を徹底的に鍛え上げ、予想もしない戦法を作り出した戦闘結果でした。
その戦法の要領を分析した結果、恐るべき戦いが行われていたのがわかり、大きな衝撃を受けました。
強烈な戦い方をする12連隊の戦法を確認し、戦法の凄さと重要性を強く認識しました。
そして、この時、自分が連隊長になった時に必ず戦法を複数作り出そうと決心した時でした。
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本書は、実戦で強烈な威力を発揮する「スカウト」の戦闘技術に触れた瞬間、根底から意識が変わってしまった隊員たちが、戦場から生き残って帰還するために、寸暇を惜しんで戦闘技術の向上へのめりこんでいく姿を記録したものです。
そして願わくば、ミリタリー関係者だけでなく、日々、現実社会という厳しい戦いの場に生きるビジネスパーソンやこれから社会へ出て行く若い人たちに、読んでいただきたいと思っています。スカウトという生き残り術を身につけることは、必ず日々の生活に役立つと私は信じています。
40連隊に戦闘技術の負けはない: どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準
『40連隊に戦闘技術の負けはない―どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準―』
に登場する隊員たちが訓練を通じ成長していく姿は、若い人達に限らず、人材育成全般にも多くのヒントがあると思います。
人生・仕事への姿勢について、ミリタリーの人に限らず、多くの人達に読んで頂ければと思います。
読み方は自由に、肩肘張らず、気楽に読んでいただき、志を持ったインストラクターと若い隊員たちの記録を堪能して頂ければ幸いです。