「要領がいい」という言葉を聞くと、小隊長時代のパッとしなかった中堅陸曹を思い出します。もしかしたら、彼がいなければ自分も、要領に走ってしまう生き方をしていたかもしれないからです。
私が普通科連隊のナンバー中隊(1中隊、2中隊というように番号の付いている中隊)で迫撃砲小隊長をしている時、彼は対戦車小隊に所属していました。42歳で独身の彼をA2等陸曹(A2曹)とこれから呼びます。
A2曹、当時部隊では珍しいパイプの愛好者でした。彼は、格好をつけ自慢げに投資などの金もうけの話をしていました。彼は、儲けた話を隊員に自慢げに話します。自分は趣味で自衛隊にいるのだと言います。
A2曹の話を聞き、心の中に何を甘いことを言っているんだという自分と、彼みたいに生きたら楽だなと感じる両方の自分がいました。
A2曹は、「人生は要領を掴めば金には困らない」と、調子のいいことを言いますが、隊員からは何故か信用されていない人物でした。
なぜならば、彼は要領と恰好ばかり付けているだけで、尊敬できるような人間性や実力を感じ取れなかったからです。
たしかに、駐屯地の警備を任されても、「警備は得意ですから任せてもらえば大丈夫です」と、口では調子のいいことを言うのですが、A2曹の率いる警備チームは、だらだらとしていて物を失くしたり、酷い時は、A2曹の運転するジープが池に飛び込むような事案も発生していました。
自分のチームを掌握することもできず、指揮する能力にも欠けていたのです。そのくせ、口ではできているようなことを言っていることがわかってきたのです。
要領ばかり追い求めているA2曹に不信感を持った中隊長は、中隊長室に呼んで面接をすることになりました。隣の事務室で様子を伺っていると、A2曹が自慢げに話している声がしました。
突然、中隊長の大きな声が聞こえ、A2曹を一喝しました。その後、強い口調で話している中隊長の声が聞こえました。
しばらくすると、中隊長室からしゅんとなったA陸曹がうなだれて出てきました。
中隊長に呼ばれて部屋に入ると、中隊長は静かな口調で「A2曹は、要領だけ探し求めていて何も力が付いていなかった。実力を付け人間性を磨くことをせずに、格好の良さばかりを追い求め要領だけで生きようとしないように、隊員へ指導をしてくれ」、と話をしてくれました。
その後、借金もかなりあることも判明し、A2曹は部隊を去っていきました。
A2曹の行動と結末は、私に「世の中そう上手くはいかないもの」であることを自覚させてくれる事例となりました。この時から「要領だけで上手くやる」ということはしなくなりました。そして、「常に実力を付ける」ことを追求するようになりました。
もしかしたら、中隊長は、安易な私も指導してくれたのではないかと思います。
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