フルスペクトラムに対応できる戦闘能力

フルスペクトラムに対応できる戦闘能力

 

 

高強度と低強度訓練

 

一時期、陸上自衛隊では、高強度紛争対応の訓練を進めるか低強度紛争対応の訓練を進めるか議論が起こりました。日本の最後の守りは、烈度の高い高強度型の戦いになるので高強度紛争対応の訓練を進めないと最終的には守れないと結論を出したり、低強度紛争への現実的な対応を重視すべきであるという考えの中を揺れ動きながら教育訓練を検討してきました。

フルスペクトラムの戦闘に対応できるようにしなければならないことは、皆共通の認識があるのですが、限られた訓練時間をどちらに、どの程度配分するかが問題となります。

部隊は一度訓練の方向性の舵を切ると、本日は低強度訓練、明日と明後日は高強度訓練というように器用にはできないのが現実です。

個人の訓練から、班、小隊、連隊と訓練を積み上げていくため、ハンドルをあちこち切るよりも、どちらかにしてほしいという意見が出ます。

高強度型訓練と低強度型訓練とを区分してどちらがいいかを考える発想や視点を変える必要があります。

私は、低強度も高強度も同じ戦闘訓練の中で捉えられ、同じ線上にあるものなので分けること自体必要がないと考え、訓練を進めていきました。

 

 

基礎の塊

 

車の免許をとる時、自動車教習所では、まず、安全点検を行います。

戦闘行動においても、銃を安全に保持し、戦闘間、銃口を人に向けるような不安全な行動をせずに戦うことをまず徹底的にする必要があります。

銃の保持とガンハンドリングの基本ができるまで訓練をしなければなりません。

車の運転において、技術的に難しいのがS字、クランクと坂道発進です。どれも狭いスペースで細かい確認と運転技術を駆使してクリアしなければなりません。

おおざっぱにやると脱輪してしまいます。ちょっとしたミスが失敗に直結します。

反対に、狭いスペースでも自由に車を操れる運転技術を身に付けると他の運転は問題なくできます。

 

低強度型訓練は、車を自由に動かせるための運転技術を向上させるものと同様のものと捉えると、訓練の必要性と何をどこまで訓練すべきか理解しやすくなります。

隊員個々ができなければならない基本・基礎の要素がかなりあります。キチンとできるようにする必要があります。

高強度型訓練は、敵味方が力の限り力を尽くして勝利を目指す戦いの場で、保有する火力と各種部隊を自由に組み合わせ、総合戦闘力を最大限に発揮させ戦いに勝利する重要な訓練です。徹底的に強くしなければなりません。

 

 

基礎がないところへの積み上げは意味があるか

 

応用編へすぐに取りかかろうとして基礎を疎かにするやり方を車の運転を例にして考えると、S字やクランクの運転が満足にできないようなレベルで、レース、難しい車の走法や隊列を組んだ運転にチャレンジしようとしても、チャレンジすること自体が危険であり、ましてや基礎ができていないので、できません。

難しい応用をやろうとすればするほど、難しい応用を支えるしっかりした基礎が必要となります。

どうしても、基礎に戻らざる得なくなります。これを無視して、無理に応用編に手を出すと訓練事故が発生します。

広く分厚いしっかりとして基礎の上には、巨大な高層ビルを建設することができます。

薄くて小さな基礎には小さな建物しか建てることができません。しっかりとした基礎を作りあげることが、多くの総合戦闘力を可能な限り発揮できる戦いをする早道となります。

 

 

フルスペクトラムへの対応能力

 

部隊・隊員は、あらゆる火力を多用する烈度の高い高強度型の戦闘~ゲリラやテロ、市街地・建物内の戦闘という低強度型の戦闘、NBC対処、国際貢献活動等あらゆる任務に対応できる必要があります。

低強度型と高強度型と無理に訓練を区分したり、どっちが大切かと意見を交わすのではなく、基本から始まり、あらゆる火力を駆使して戦うところまで部隊・隊員を如何に仕上げていくかを進めることが重要となります。

前線に近い隊員は、ガンハンドリング、小銃による射撃と砲迫火力の要求は必要不可欠であり、誰もができなければ生き残れません。

本部、司令部クラスになると戦車、航空機、各種ミサイル、部隊への補給・整備、負傷者対応の衛生等、諸職種の力を結集して運用できるか、できないかで、部隊が強いか強くないか、任務達成できるかどうかに大きく影響します。

任務を部隊・隊員へ付与する時に、厳しい任務を遂行できる十分な装備と戦闘技術を部隊・隊員は持っていなければなりません。

訓練の質と量を増加させるために、指揮官、幕僚、幹部、最先任上級曹長、准曹、陸・海・空士はそれぞれの立場で考え実行する必要があります。

 

 

演習場は特殊地形

 

訓練は、演習場でなければできないというのは、実弾射撃や自由な戦闘行動をするために理解はできますが、演習場はどんな地形であるか捉えておく必要があります。

一般的な都市・街は、道路は舗装されており、街には信号機や看板、電線が多数あり、大型商業施設やマンション、高層ビルがあります。

演習場は、ほとんどが砂利道で、広い草地や自然公園の様な地形が多く、市街地の様な特性はありません。大砲を演習場では土の上に布置できますが、街では学校やそんな広くない公園程度のスペースしかありません。

ここで伝えたいのは、演習場の訓練が全てではないということです。どちらかといえば、演習場は日本の中では、特殊地形に近い特性があります。

基本をしっかり訓練を行いながら、特殊地形ではない、一般的な場所では如何に基本を応用するか何時も頭を巡らせておくことが重要となります。

偏った考えや行動に陥ることなく、引き出しを多く、状況に適合した対応ができる思考と戦闘技術を身に付けて下さい。

 

 

 

 

【kindle本が出ました】

 

本書は、実戦で強烈な威力を発揮する「スカウト」の戦闘技術に触れた瞬間、根底から意識が変わってしまった隊員たちが、戦場から生き残って帰還するために、寸暇を惜しんで戦闘技術の向上へのめり込む姿を記録したものです。

そして願わくば、ミリタリー関係者だけでなく、日々、現実社会という厳しい戦いの場に生きるビジネスパーソンやこれから社会へ出て行く若い人たちに、読んでいただきたいと思っています。スカウトという生き残り術を身につけることは、必ず日々の生活に役立つと私は信じています。

 

40連隊の見えない戦士達: 自然をまとう「スカウト」戦闘技術
40連隊の見えない戦士達: 自然をまとう「スカウト」戦闘技術

 

『40連隊に戦闘技術の負けはない―どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準―』
です。

40連隊に戦闘技術の負けはない: どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準
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『40連隊に戦闘技術の負けはない―どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準―』
に登場する隊員たちが訓練を通じ若い隊員が成長していく姿には、若い人達や人材育成に関する多くのヒントがあると思います。

人生・仕事への姿勢について、ミリタリーの人に限らず、多くの人達に読んで頂ければと思います。

読み方は自由に、肩肘張らず、気楽に読んでいただき、志を持ったインストラクターと若い隊員たちの記録を堪能して頂ければ幸いです。

 

 

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1 Comments

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