現状の訓練に満足していない隊員を如何に強くしていくか

現状の訓練に満足していない隊員を如何に強くしていくか

 

 

演習場は特殊地形と認識しているか

 

 陸上自衛隊の訓練を行う演習場は、砂利道で一面の野原で建物はなく、丘陵地帯に設置されています。演習場は、国土地形を一般化したものではなく、今では特殊地形であるという認識が必要となります。
 演習場は、何処でも陣地を作るための穴掘りが可能ですが、一般の街には銃に穴を掘って陣地を作るスペースはなく、多くの建物で構成された市街地です。

 基本となる訓練は、道場である演習場で可能ですが、国土戦となると市街地の特性に合わせた戦い方を開発し、訓練を進めていくことが必要です。

 北海道で大輸送船団によるソ連の上陸部隊の侵攻を食い止めるような戦いの場から、戦いの様相は大きく変化しました。

 市街地が続く都市が存在し、多くの住民が生活している日本で、中国大陸のような地形の演習場で訓練を行い、陣地防御を中心に穴掘りばかり行わなければならない必要性は、なかなか隊員には理解できません。

 住んでいるところに演習場のような地形は存在しないため、リアリティーのない訓練を延々としているように感じるからです。

 

 

素直な心で訓練を捉える

 

 演習場は各種訓練を行う場所として重要な場所です。演習場での訓練も大切にしながら、駐屯地内、駐屯地近傍訓練場・演習場の活用、市街地訓練場のなどの設置を進め、隊員、小部隊の戦闘に直結するリアリティーのある訓練内容を進めていくことが必要であると思います。

 市街地では、電線や看板による視界の制限、建物の屋上の価値、性能の高い装備、器材が威力を発揮します。
 オペレーション・トレーニング・サービス(OTS)の畠山氏は、長年多くの隊員と接している人物です。畠山氏の事務所での意見交換は、世界の最新情報、装備品で陸上自衛隊に有効なもの、全国の部隊・隊員の状況など、尽きない話でいつの間にか時間が過ぎてしまいます。

 「陸自の装備していない、性能の高いスコープを使用した正確な射撃の映像を見た隊員の言葉を聞いて複雑な気持ちになりました」と畠山氏は話し始めました。

 「スコープが無くても、うちの中隊の〇〇2曹なら同じように当てられるからこのスコープがなくても、問題ない」と反応したからです。
 
 普通に考えれば、「このような性能の高いスコープを我々も是非欲しい」という反応が返ってくるかと思いますが、意外な反応でした。
 「その隊員がどうというよりも、このような言葉が普通にでてしまう全体の環境に違和感を感じます」と畠山氏は話してくれました。

 「スコープがあれば誰でも〇〇2曹と同じように当てれるようになると言わないのか、なぜ無理に受け入れることを拒み、苦しい理由を言うのか」、各地域で程度の差はあるものの、共通した反応と聞いて、連隊長時代に周りが同じ反応をしたことを思い出しました。
 
 

 

スキルアップできない

 

 上司や先輩から抑え込まれてしまい、隊員が本物を追求していく訓練ができず、スキルアップのできない訓練環境の改善が必要です。
 隊員は、モチベーションを挫かれ続けると、やろうという意思はなくなり、最低限の力を消費するだけの受け身で流す訓練へと変化してしまうからです。

 実戦的な訓練やスキルアップを狙った訓練をしようとすると、幹部や上司から「これは実戦の常識から外れている。敵はこのような行動をとらない。なんでこんなことを考えたんだ」、「今やっていることは、どこに根拠があるのか言ってみろ、教範にないことはやってはならない」と止められることがあります。
 
 常識から外れているという人の常識がおかしいと考えても、上司から言われたらやることはできません。
 ガラパゴスの生物のように、周りの変化に関係なく生きていくような教範にないことはやってはならないという感覚は、隊員のスキルアップをしたい気持ちを破砕します。

 畠山氏は、「肩の上にライフルを乗せて横にして撃つ映像を見て、実際に行なっている動作なのか、その良否がわからない」という隊員が今は普通にいる状態なので驚いているといいます。
 窮屈で形を重視した訓練していることがわかります。

 

 

隊員の真剣度

 

 面白いものを面白くないようにする、敵はどんな状況でも型にはまった行動をとる訓練の場、市街地や車はなかったことにすると仮想の状況の設定をなくし、実在するものの中でリアリティーのある訓練の場で何ができて何ができないかを訓練で追及したり、対抗部隊を戦闘技術の強い隊員で構成して訓練を行う工夫を続けていくと、隊員は見違えるようにスキルアップしていきます。

 実戦的な訓練をすることによって、基礎訓練の必要を痛感し厳しく追及するようになります。
 目標情報と火力の連携、火力戦闘部隊との迅速・正確な調整が必要不可欠であると感じれば、演習場で徹底的に内容を詰める訓練を行うようになります。

 リアリティーある訓練が重要です。リアリティーのある訓練を行うことによって、隊員の真剣度が増すからです。

 防御は本当はとても難しく苦しいものですが、そのような感覚はあまりありりません。
 
 自由に行動できるはずの攻撃部隊が、行動不能地域を多く設定し、迂回できないようにして防御部隊に対して正面攻撃をするような訓練を続けているからです。リアリティーのある訓練を行うことによって、防御の本当の難しさを理解できます。

 隊員が真剣に訓練へ取り組み、スキルアップしていくリアリティーのある訓練を進めて下さい。隊員が任務を確実に達成し、生きて帰ってくる能力が向上すると思います。

 頑張って下さい。応援しています。

 

 

 

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本書は、実戦で強烈な威力を発揮する「スカウト」の戦闘技術に触れた瞬間、根底から意識が変わってしまった隊員たちが、戦場から生き残って帰還するために、寸暇を惜しんで戦闘技術の向上へのめりこんでいく姿を記録したものです。

そして願わくば、ミリタリー関係者だけでなく、日々、現実社会という厳しい戦いの場に生きるビジネスパーソンやこれから社会へ出て行く若い人たちに、読んでいただきたいと思っています。スカウトという生き残り術を身につけることは、必ず日々の生活に役立つと私は信じています。

 

 

 

40連隊に戦闘技術の負けはない: どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準
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『40連隊に戦闘技術の負けはない―どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準―』
に登場する隊員たちが訓練を通じ成長していく姿は、若い人達に限らず、人材育成全般にも多くのヒントがあると思います。
人生・仕事への姿勢について、ミリタリーの人に限らず、多くの人達に読んで頂ければと思います。
読み方は自由に、肩肘張らず、気楽に読んでいただき、志を持ったインストラクターと若い隊員たちの記録を堪能して頂ければ幸いです。

 

 

 

オオクワガタ採集記: 朽木割り採集・灯下採集・樹液採集の世界
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オオクワガタに出会い、採集やブリーディングを始めて、いつの間にか20数年が経ってしまいました。
日本各地のオオクワガタの有名ポイントで多くの仲間と出会い、採集をした楽しい思い出やズッコケ採集記は私の宝物です。
オオクワガタを通じ、色々な経験や学びがあり、人生が豊かになった感じがします。そんなオオクワガタ採集記をお楽しみ下さい。

 

 

 

オオクワガタ飼育記 ~マット飼育による美形・大型作出テクニック~
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マット飼育は、菌糸ビンのように簡単に大型を作出するのは難しい飼育法ですが、綺麗な個体を得ることができ、安価で多量にオオクワガタを飼育できることが魅力です。
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