40連隊の陸曹「戦闘で死なない男」

40連隊の陸曹「戦闘で死なない男」

 

 

実戦に強い男を探して

 

毎日、時間が許す限り、部隊の訓練を見て歩き、強い部隊育成の核となるインストラクター要員を探していました。40連隊は、駐屯地近傍にある小演習場に市街地訓練場があるせいか、市街地戦闘訓練が盛んです。より実戦的な訓練に改良を加えている第1中隊が、建物からスッと飛び出して正面の敵を倒す射撃訓練をしています。

付近に家が多く空包が使えないので、射撃動作を完成させる訓練をしています。

射撃をする正面近くに立って、射撃動作を見て性能の高い隊員がいないか探していると、形はいいのですが戦いというより、劇を演じているような、真剣ではなく竹刀で試合をしているような感じのものばかりで、少しがっかりしていました。

 

 

完全に撃たれた感触

 

普通のメンバーより、明らかに動作が速く、引き金を引く瞬間、足・腰・上半身・肘・頭がピタッと制止し、明らかにその男の放った弾丸がボディー・ボディー・ヘッドと自分に3発撃ち込まれたのを感じました。

この男は、生きるか死ぬかの状況と同じ状態でこの訓練へ臨んでいるのを知りました。「彼は誰?」と聞くと、「Irie(以下、Iという)です。そんなによかったですか?奴は考えが単純で、良いと言われたら浮かれてしまうだけです」と返ってきました。いいから、Iを呼んでほしいと言い、あまり浮かない顔で幹部がIを呼び寄せました。

 

Iという男

 

Iは、色々な装具を付けています。どうしてこんなに装具を多くつけているかを聞くと、「実戦に必要なものを付けているだけなので、多いとは思ってもいません。訓練は実戦で確実に戦えるように、より付加をかけるのが当たり前ですし、40連隊の訓練はもっと厳しくすべきです」と言います。「こういう男です」と幹部が呆れていましたが、私は、「いたなこの男かなり使える」と感じました。

周りの隊員達も幹部と同じ反応で、またIがいろんなことを言っているぞ、しょうがないなという感じで見ているのがわかりましたが、Iは必ず40連隊を引っ張る男になると思いました。

Iにどういう訓練をすれば強くなるか聞いてみると、「仮設敵といって訓練が上手くいくようにする標的みたいなのではなく、一番強いものが対抗部隊になって、ドンドン訓練部隊をやっつければいいと思います。

強い相手とやらないと強くなりません。」続けて、「futamiryu(著者)、自分達の戦闘技術は、世界標準に達していません。世界と戦える戦闘技術を学びたいです」と言います。

頼もしい男です。「では、一緒に強さを目指そう」とガッチリ握手をしました。

 

 

FTCでいつも生き残るI

 

現在、一度も負けないばかりか、危ない状況に陥ることもなく、全国からやって来る訓練部隊を全滅にする最強のFTC(富士トレーニング゛センターの対抗部隊専門部隊)との戦闘に、Iは毎回参加しました。

FTCの第一線陣地に突入し塹壕へ飛び込んだ時、小隊は、5~6名に減り、小隊長、班長も戦死し、残った隊員もバラバラになっている状況で、無線機を掌握し状況を中隊長へ報告するとともに、砲迫火力を要求しているIがいます。Iは、大きな声で隊員を鼓舞し、直ちに残った隊員を集めて、第二線陣地へ後退中の敵部隊を追撃する準備をしていました。

次のFTCでは、ジグザグの動きで敵の射撃を上手く回避しながら敵を倒し、第一線陣地に突入後、撃破した敵戦車に登り、戦車の車載機関銃を敵へ撃ちこみ、味方の突入のチャンスを作るとともに、戦車の無線機を使用して通信を確保していました。この時、中隊はほぼ壊滅状態の中、またしても最前線の戦闘の焦点でIは活躍しています。

Iが戦死したのを見たことがありません。めっぽう実戦に強い男です。

 

Iは何故死なないのか

 

Iは、何故いつも生き残るのか、運がいいのか、何かポイントがあるのか。「何故皆すぐに戦死してしまうのですか、信じられません。訓練ではなく、実戦で弾が当たれば死ぬものだと考えて、本気で行動すればやられることはありません」 とIは言います。

Iは、基礎的な行動をキチンといついかなる時も行います。

日常から、本気モードで手を抜かず訓練を続け、通常訓練では更に負荷をかけて実戦を常に意識して訓練をしています。

この努力が、Iの戦闘技術とセンスを磨き、戦闘において生き残れる道(タイミング、空間)が見えるようになったのだと思います。

 

ガンハンドリングインストラクターが、Iを初めてみた時、「とても気になる男です。もしかしたら、大化けするかもしれませんね」と言った通り、Iはどんどん成長を続けています。

 

Iは、FTCを攻略するため、自らFTCへの人事異動を希望し腕を磨く男です。Iは更に実戦に近い行動をする部隊で腕を磨き続けていると思います。

 

頑張れIrie

 

≪次のブログも参考にしてお楽しみください≫

 

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死なない男が仲間を連れてきて、射線の重要性を語る
 
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【kindle本が出ました】

 

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40連隊の見えない戦士達: 自然をまとう「スカウト」戦闘技術
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本書は、実戦で強烈な威力を発揮する「スカウト」の戦闘技術に触れた瞬間、根底から意識が変わってしまった隊員たちが、戦場から生き残って帰還するために、寸暇を惜しんで戦闘技術の向上へのめりこんでいく姿を記録したものです。

そして願わくば、ミリタリー関係者だけでなく、日々、現実社会という厳しい戦いの場に生きるビジネスパーソンやこれから社会へ出て行く若い人たちに、読んでいただきたいと思っています。スカウトという生き残り術を身につけることは、必ず日々の生活に役立つと私は信じています。

 

 

 

40連隊に戦闘技術の負けはない: どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準
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『40連隊に戦闘技術の負けはない―どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準―』
に登場する隊員たちが訓練を通じ成長していく姿は、若い人達に限らず、人材育成全般にも多くのヒントがあると思います。
人生・仕事への姿勢について、ミリタリーの人に限らず、多くの人達に読んで頂ければと思います。
読み方は自由に、肩肘張らず、気楽に読んでいただき、志を持ったインストラクターと若い隊員たちの記録を堪能して頂ければ幸いです。

 

 

 

オオクワガタ採集記: 朽木割り採集・灯下採集・樹液採集の世界
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オオクワガタに出会い、採集やブリーディングを始めて、いつの間にか20数年が経ってしまいました。
日本各地のオオクワガタの有名ポイントで多くの仲間と出会い、採集をした楽しい思い出やズッコケ採集記は私の宝物です。
オオクワガタを通じ、色々な経験や学びがあり、人生が豊かになった感じがします。そんなオオクワガタ採集記をお楽しみ下さい。

 

 

 

オオクワガタ飼育記 ~マット飼育による美形・大型作出テクニック~
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マット飼育は、菌糸ビンのように簡単に大型を作出するのは難しい飼育法ですが、綺麗な個体を得ることができ、安価で多量にオオクワガタを飼育できることが魅力です。
本書により、マット飼育のコツを積み上げ、皆さんの目指すオオクワガタを作出して頂ければ幸いです。

 

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2 Comments

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