旨い日本酒が手に入ると、お互いに4合瓶を持ち合って日本酒を楽しむ夕べをする友人から、「14代をリーズナブルな値段で購入できる権利が当たりました」、「いつもいいやつが手に入るお酒屋さんの抽選で初めての当選です」と連絡が入ったのです。
画像を見ると酒米は「愛山」と書いてあります。そして、泣かせる文章が続いていました。「美味しいつまみを準備するのでどうぞ」とありました。
すぐに「断る理由が全く思いつきません。しかも愛山の十四代を引き当てるのは素晴らしい」と返事をしました。
「開けてみて下さい」と出てきた十四代は、一升瓶でした。よく考えてみると、半世紀以上生きてきて十四代の開封は初めてでした。開栓とともに、華やかな香りがふわっと広がりました。
旨いお酒とつまみが揃っての利き酒会は素晴らしい会になるのは最初から分かっていましたが、予想以上に会話が弾みました。
錫の入れ物に入れ、十四代を楽しんでいると、思考や思い出も広がります。そういえば、日本酒を素晴らしさを初めて知ったのがこのお酒であったことを思い出しました。30代半ばまで、日本酒は醸造されたものしか飲んでおらず、最初は辛くても最後に甘ったるさがべったり残り、底辺にケミカルを感じるものでした。
そして、日本酒を飲むと決まって悪酔いし、酔いがさめる時に頭が割れるように痛くなっていました。宴会では日本酒には手を出さないと決めて参加していました。
ある時、日本酒をこよなく愛する人生の先輩と親しくなりました。先輩は、「あなたの飲んできた日本酒はそうだったかもしれないが、本当に旨い日本酒はを知ると世界は変わります」
と言われました。機械で薬品を投入して作ったと思っていたので、「どんな日本酒ならいいのですか」と聞くと、「まず、純米酒であること。山田錦という酒米を使っていればハズレはないこと。生に近い酒であること」
当時は人工的に作り出した醸造アルコールを混ぜていた(現在は自然の原料から作成している醸造アルコールになっているため、それはそれで味わいがあります)ので、それを避けること、美味しい日本酒を作り出す酒米として代表格であり、日本全国で使用されていること、日本酒は、出荷までに通常2回火入れをするが、全く火入れをしていないものを生酒といい、冷蔵庫で保管していないと状態を維持できない。
日本酒は、とても繊細なお酒なので変質しやすいということを初めて知りました。直射日光に当てるなんてもってのほかであると言われました。
「日本酒を冷蔵庫で保管している店を見つけてください。美味しい日本酒を手に入れるお店です」と教えて頂きました。
「しかし、食べ物とお酒はいくら美味しいと説明されても、実際味わってみないとわかりません」と生意気なことをいっても、「では、今度美味しいお酒を持って来ましょう」と笑いながら受け止めて頂けました。
先輩は、「新年会では美味しい日本酒を皆さんに知ってもらいます。持ち込みOKの店を選択してください」と忘年会の時コメントをしてその年を打ち上げました。
新年会の日に先輩は、大きな保冷バッグを抱えてお店に入ってきました。「味を落とさないように保冷材も入れてあり、飲み頃の温度になっています」と一升瓶が2本出てきました。「14代」と「奥播磨(ビンに何もラベルがなく蓋を見ないとわからないタイプ、今はないそうです)」でした。
開けますと言って、開封に手間取っていると「スパッとかっこよく開けないといけません」と開封の仕方を教えてくれました。栓を抜こうとするとかたいので力を入れようとすると、「両手の親指を使って持ち上げるようにします」と見本を見せて貰いました。
グラスに注がれた14代は、今までの日本酒のべたッと甘ったるくそれほどいい臭いではないものとは、生きている世界が違う別物でした。
とても香りがよく、香りとともに気持ちも広がっていく感じでした。舌で感じるほのかな甘みと鼻を麹の香りが抜けていき、一瞬に華やかな味が上品に広がりました。喉を通る時、消えないでほしいという余韻を残しながら微妙に味が変化しながら消えていきます。
先輩がニコニコしながら、「どうです」と旨いでしょという顔で聞いてきます。この時から、先輩は、私の中で先輩ではなくなりました。
「師匠! これからよろしくお願い致します」と握手させて頂きました。
この時から、旨い日本酒に出会う旅が始まりました。当時師匠は、「この酒のように真面目に作っているところが減少しています。私の夢は同じレベルの酒がどこでも飲める日本になることです」言っておられましたが、その夢は、25年の年月を経て実現したのではないかと思います。
そんな話を聞いていた友人は、残りの14代をそのままお土産にくれました。
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