正常性バイアスは、「自分にとって都合の悪い情報を無視してしまうバイアス（傾向）」です。客観的に見て失敗する可能性が高い状況でも、「自分だけは大丈夫」「今回も大丈夫」と捉えてしまいます。
確証バイアスは、「自分が正しいと思ったことを肯定する情報だけを信じ、否定する情報を避けたり無視するバイアス」です。（正常性バイアス・確証バイアスを今後「正常性バイアス等」と表現します）
この「正常性バイアス等」のプラス面は、心を安定した状態に保つことができることですが、一方でマイナスに働くことがあるのです。
連隊（１０００名）規模以上で行う自由対抗戦の訓練では、情報幕僚、作戦幕僚、火力調整幕僚など作戦計画を作成し部隊を運用する戦闘指揮所が構成されます。戦闘指揮所に指揮官が位置して部隊を運用します。
通常、夕以降、本日の戦闘結果と明日以降の作戦を決定する作戦会議を行います。作戦会議は、可能であれば中隊長や直轄部隊の小隊長が参集されます。状況が変化する兆候があれば、臨時に作戦会議を開きます。
作戦会議では、状況が報告されます。「うちの部隊が負けるわけがない」という気持ちが強すぎる指揮官の場合、自分に都合のいい情報が報告されると満足し、都合の悪い情報が報告されると機嫌が悪くなり怒り始めるタイプがいます。
戦闘指揮所の雰囲気は、次第にこのタイプの指揮官のような雰囲気に代わっていきます。そして、状況の進展に関係なく、指揮官が喜ぶ情報だけが報告されるようになっていきます。このようになると戦闘での勝利から大きく遠のきます。
正常性バイアス等を避け、後悔しない選択をするためには、より正確な判断力を身に付ければいいと考えがちですが、アプローチの仕方はその逆となります。
自分の判断力のなさ、選択する力のなさを認めることが正常性バイアス等を避ける出発点になるからです。自分には判断力があると信じていて、自分の能力について過大に見積もってしまう状態になりやすくなるため、大丈夫だと自分が判断したのだから、これは正しい判断であると余計思い込んでしまう状態に陥ります。
だからこそ、自分の意志力のなさ、選択力のなさを認める「素直で謙虚な心」が大切になります。
次に、正常性バイアス等の落とし穴から逃れる具体的な方法について、災害対応と新規事業プロジェクトの人選を例に説明します。
例えば、住んでいる地域に「避難勧告」が発令され、「避難するか」、「しないか」の選択をするとします。２択は自動的に視野を狭めてしまい、正常性バイアス等を働きやすくしてしまいます。
このバイアスから逃れるためには、「避難しないとどのようなリスクがあるのか」、「避難する場合、どこに行けばいいのか」、「避難するための手段はいくつあるのか」、「避難する前に想定しておくべきことは何か」など選択の幅を広げて考えることにより、幅が広がり妥当な判断ができるようになります。
新たな事業プロジェクトへ事業部から担当者を出す場合、「今までのカナデンだと実態はほとんど動かないから、作業員的に出すか若いメンバーにする」という視野の低い対応になりがちです。
バイアスに支配されないために、なぜ今、色々なプロジェクトが立ち上がっているのか、市況の変化とコロナで急速に環境が変化しているからか、検討のための検討をするだけのいつもの人選でいいのだろうか」、「会社は本気で進めようとしているのなら、どのような人材を選定すればいいか」、「プロジェクトが上手くいかないと、どうなるのかを考えて人選してみよう」、「プロジェクトが上手くいくと、その要領を事業部へ適用できるので波及効果が高いな。誰を人選すべきか」
というように、視点を上げ、幅を広げて考える事によって、適切な判断ができるようになります。
災害発生時に自分ではどのように考えるか、有人からどうすればいいか聞かれた時に、自分はどのように答えるかというアプローチをしてみると、客観的な見方ができるようになります。
選択肢を２択にするのではなく、内容を広げ具体化してみると正常性バイアスや確証バイアスに囚われることなく、適切な判断ができるようになります。
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