常に戦いは進化している -戦闘競技会-

常に戦いは進化している -戦闘競技会-

 

本記事は、戦闘競技会シリーズの第3話です。本記事を読む前に第1話と2話を先に読んでおくことをオススメします。

第1話「相手を全滅させる男 -実戦的な戦闘競技会-
第2話「第2回戦闘競技会 -凄い男hidakaが2回戦で消える-

 

 

怪物を仕留めるには

 

Hidaka(仮称、以後H)を仕留めるために、Hを止めるにはどうすればいいのかを各小隊は考え、作戦を作って訓練を積み上げなければなりません。Hidaka小隊の戦法は(※)、敵部隊を薄く包囲した中に、Hが一人で入っていき狩りをするように相手部隊を全滅させるものです。

ある部隊は、Hと同程度の性能を持つ隊員をマタギ出身の隊員を鍛えて作り上げて、包囲している中で一騎打ちをする戦法を作り上げてきました。

敗戦の理由は、Hは昨年よりもレベルを1.2倍に上げていた分、昨年と同レベルで設定したマタギ出身のHは敗れました。自分の事を中心に考え、Hが進歩することを計算していない見積もりの甘さが敗因です。

 

(※)Hidaka小隊の戦法は、「相手を全滅させる男 -実戦的な戦闘競技会-」、「第2回戦闘競技会 -凄い男hidakaが2回戦で消える-」を参照して下さい。

 

 

対怪物撃滅作戦

 

正月も演習場で訓練を続けていたA小隊は、Hの走力と戦闘能力を抑えるのに当初3人でHの狩り方を考えていましたが、やられる可能性があるため、何度も戦闘パターンを修正しながら、戦法を練り、小隊を練成していました。

その結果、H狩り部隊7名を編成して、Hが小隊長を狙うために接近する経路を分析して、その経路上で次々7名戦いを挑み、7名やられてもHを倒せれば、残りの部隊で相手を倒すことができるレベルまで、戦闘訓練を積み上げました。

A小隊は、2回戦でHidaka小隊と当たりました。Hの可能行動を読み、どこにHが動こうが網にかかるように待ち構えていたH狩り部隊の4人目の網にかかり、開始10~20分程度で遂にHを倒しました。「Hidakaダウン」は、統裁本部内で傍受しているA小隊の通信から、小隊長へ報告された通信内容です。

 

 

ギアの切り替え

 

Hを仕留めた若い小隊長A率いる部隊は、準々決勝でどう戦うのか楽しみでした。強烈な敵を撃破した部隊は、達成感と疲労が重なり、通常、集中力の低下や運動量が低下してしまいあっけなく敗退してしまいがちです。

3回戦でなんとA小隊は、戦い方を変化させました。Hidaka小隊が行う戦法をHは1名ですが、H役を2名に修正した戦法にし、一気に相手小隊を包囲ながら狩りを2名で行い全滅させてしまいました。

準決勝では、更に、ギアを切り替えて戦法が全く変わりました。相手はHidaka戦法の修正でくると考えて準備していたのを正確に相手の位置を掴み砲伯火力によって、今度は小銃、機関銃の直射火力ではなく、曲射火力を中心とした戦いに切り替えたため、相手小隊が混乱してしまいました。

このA小隊は、多くの戦法の引き出しを準備し、各戦法のレベルも厳しい訓練によってどれを使ってもチャンピオンになれるほど高めていました。

 

 

決勝戦での勝負を決めたポイント

 

A小隊と決勝戦を戦うB小隊も、圧倒的な強さで戦う部隊を全滅に近い状態にして勝ちあがってきました。B小隊の小隊長もまた若い小隊長で、小隊長の判断能力と隊員のレベルの高さはA小隊と同レベルです。

決勝戦は、味方の位置を正確に把握し、敵部隊の位置をしっかり掴みとり、相手の迂回攻撃を封じたり、敵を引きこんで砲伯火力を撃ち込んだり、正確な射撃で倒す等、両者の力が均衡し、戦力の削り合いが続きました。

小隊は3個の班があり、班長が部隊を率いて現場で戦闘を繰り広げます。班長は戦闘のプロであり、班を引っ張る原動力になります。

戦闘が続いていくうちに、重要な役割を果たす班長が両方の小隊で戦死していきました。そのあとを継ぐ副班長も重傷や戦死になり、班のリーダーは、班長から副班長へ、副班長がやられると次は1組長、2組長と指揮を取っていき部隊の行動を継続していきます。

A小隊は、組長が班の指揮をとっても自由自在に動けるまで訓練をしていました。組長が班のリーダーとなって班長と同様の行動がとれるA小隊と、組長は副班長レベルの能力までのB小隊との指揮官の能力の差、指揮官による組織力発揮の差によって勝負がつきました。

「常に戦いは進化している」、「進化しない部隊に勝利はない」ことを戦闘競技会から学びました。

 

 

戦闘競技会の生みの親Hidakaからのコメント

 

戦闘競技会第1話作成後、当時師団(7000名の部隊)の訓練担当をしていた、戦闘競技会の生みの親Hidakaと連絡を取り、コメントを依頼しました。Hidakaは自衛官生活終了後、射撃場で管理と射撃の教育をしていました。退職後も好きなことをやっているHidakaが少し羨ましく感じます。

 

柔らかなコメントかなと思っていると、若いメンバーへの熱いメッセージでした。以下、Hidakaのコメントです。

 

 

 

戦闘組織が強さを発揮するのは、全員が同一の目標に対して努力を指向する過程においてそれぞれの役割分担を認識できているからこそ、一つのチームとして目的を達成することに快感を感じることができる。

戦闘競技会において一つの戦法が発見されると、そこからもう一歩進んだ違う戦法を考え出すのはそういった連鎖が始まるからであると思う。それは100個の戦闘には決して同一の形態は無く、100種の戦闘がそこに存在することを知っている部隊が強い。そこに考えが及ばない部隊は弱小であり、あるが故に生き残ることができない。

脳髄を絞り出して困難を攻略する考えをやめない限りそこには進歩があると思う。だから、できない理由を探すよりできるやり方を考える方がよっぽど私には快感が走る。しかし、これは確かに精神的にはそれ相当のきつさが自分に伴うことも忘れてはならない。と思います。

 

 

 

 

 

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2 Comments

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