誰が強いのか、どうすれば強くなれるのか(その2)

誰が強いのか、どうすれば強くなれるのか(その2)

 

 

敗戦濃厚のクルスクの戦いへ臨むドイツ軍と同じ部隊を見る

 

小倉連隊へ着任してすぐにFTC訓練へ参加する計画になっていたので、早速中隊長を呼んで、実戦的な行動をとることを徹底するように指示を出し、10日後、対FTC訓練を確認に行くと、普通にただ流している訓練の光景がありました。

怒りを抑えて「勝負は、少しでも手を抜いたほうが負けるよ」と言うと、「わかりました」と返ってきますが、勝つのが目的ではないのがFTC訓練なんだし、必死になることもなく、こなせばいいのではないか、と中隊長の心が言っているのがわかりました。

実戦で多くの部下が犠牲になる典型的な部隊が目の前にありました。

まず、幹部からFTCと戦える精神、意思を持つようにするところから始めないとならないな、と実感しました。

こんな状態ではあと10日後の富士への出発まで勝てるレベルになることはできません。
訓練のレベルはチョットやれば上がるというものではありません。

できることは、隊員に勝ちを追求する心を伝えるのみでした。このレベルでは初日で戦闘訓練が終わる=全滅の状態です。

部隊が戦場となる演習場へ車両や装甲車で前進するのを道端に立ち、一人一人敬礼をして見送りました。
この時感じたのは、第2次世界大戦の時のクルスクの戦いでした。クルスクの戦いは、ドイツとロシアの戦いで、戦車戦が有名です。

ドイツの現地指揮官はやれば負けるのがわかっている戦況で、クルスク戦のため、大草原の中をドイツ機甲部隊が前進していくのを悲しそうな後ろ姿で見送っている一枚の写真が頭に浮かびました。

指揮官として負けるのがわかっている戦いへ部下を送り込むのはとても辛いものです。絶対やってはいけないことです。着任早々悲しい情景となりました。

部下がそう思っていないところが、更に強烈です。

 

 

白帯の小倉と黒帯のFTC

 

まだ、戦闘は始まっていませんが、戦闘競技会レベルの部隊にして黄色帯、個人の射撃能力・戦闘技術を上げて紫帯、戦車と対戦車ミサイルの火力の組み込みができて茶帯、砲伯火力を目標に誰でも誘導できるようになって1級、見つからないで敵を見つけるレベルで黒帯と次やることを考えました。

FTCを追い詰めて、塹壕戦になった時に必ず仕留めるための至近距離の戦闘、特に市街地戦闘スキルも磨かなければならない。

FTCは2段に近い実力なので更にすべきことを考えました。

戦闘の全般がわかるコントロールセンターに行くと、先輩のセンター長が「futamiryu今回はどうだやれそうか」と声をかけてくれました。

「初日持つか持たないかです」と答えると、「やる前から、いつまでもつかを話す奴は初めてだな。訓練してきたんだろう?」、「根本からやり直しますのでまた機会をください。現在FTCと互角に戦う戦闘技術は全くありません」と話すと、「お前らしいな、もしかしたら、お前の部隊に将来苦戦するかもな」と笑っていました。

始まって4時間もするとFTCの斥候が砲伯火力を正確に要求し、小倉部隊に降り注ぎ始めます。

回避していると部隊行動が乱れるので、そこをまた叩かれています。センター長へ「もう終りにしたい」と言おうと何度も思いました。敵も見つからないうちに1/3の戦力を消耗してしいました。

FTC部隊の練度(レベル)を正確に把握し、叩き潰せる戦法を考えようと思い、最後まで子どもと大人の戦いみたいな戦闘をみることにしました。

ishidaが「やっぱり地形を知っているのは強いですね」と言いました。

「地形がどうこう言う前に、弱すぎる我々を恥じて反省から始めよう。どうせ今夜ギブアップだ」というと、ishidaは、これからの対FTC訓練スケジュールを作り始め、訓練計画、演習場の予約、企画部門へ連絡、指示を開始しました。

 

 

砲弾が降り注ぐ中の攻撃準備

 

夜間、敵の陣地に接近する時、複数のFTCの斥候に追尾されているので、止まれば砲弾が落下して損害が膨らみます。

バラバラになった部隊を暗闇で把握するのに時間がかかり、やっと集まったところへまた砲弾が降り注ぎます。

攻撃のために敵陣地の偵察へ行った小倉の斥候は、全員FTCの斥候狩り部隊にやられて誰も帰って行きません。

明け方前に、攻撃を開始する場所に到着して各小隊は攻撃準備をします。

しかし、位置を把握されているため、砲弾が雨のように降り注いできます。攻撃側も砲伯を射撃して敵陣地を制圧しようとしますが、斥候を全員仕留められているため、正確な位置がわからず全く効果がありません。

センター長が「futamiryu、せっかく九州から来たから、突入までやらせるから」とやっても全滅が待っているだけですが、最後まで経験できるように配慮してくれました。ここで、驚愕の動きを初めてみました。

 

 

初めてみる戦闘中の配備変更

 

攻撃側は、防御側よりも戦力が大きく、何処から攻撃してくるかわからないので部隊を薄く配備しかできない防御が通常不利です。

このFTC訓練場は、地積の関係で大きく迂回したり包囲することはできないので主は正面攻撃となります。

それでも、戦力差があるため、陣地による阻止火力と配備変更をして攻撃部隊の来る場所へ部隊を集中して戦います。

1個小隊(40人)が攻撃するところに、防御側は5人では戦闘が苦しいので、他のところに配置している部隊を戦闘間移動させ、攻撃部隊が来るところの人員を20人にしたり、戦車を移動させたりして防御部隊の勝ち目を追求するのが配備変更による戦闘のやり方です。

配備変更は、なあなあの訓練ではやったり、みたことはありました。

 

 

驚愕の部隊の練度

 

しかし、戦闘を本気モードでしている状況での配備変更、しかも、装甲車を自在に使いこなしながら行う戦力の集中は初めてみました。

通常のレベルではやろうと考えても部隊を徹底的に鍛えるだけではできません。一人一人、かつチームが自らが考え自らが判断して行動し、修正を加えながら戦うことができる状態になっている必要があります。

更に、地味であるが、戦いにおける細部までの詰将棋を行っているということです。

各場面で発生が予想される、対処しなければならない状態を想定し、この場合どうするというように、部隊動きと個人の動きを考え、話し合い、訓練し、実動で問題点として浮かび上がった部分をまた話し合い、できるまで訓練をするやり方で対応要領を詰めていなければできない行動です。

 

 

40連隊に戦闘技術の負けはない

 

敵陣地へ突入する時には、ほとんど戦力を消耗している状態で、突入と命令をしている無線がコントロールセンターに入り、そして、突入の度に撃たれている小倉の隊員を画面で映し出されていました。5分で1個小隊、10分で2個小隊が全滅していました。

「futamiryuそろそろ終了でいいかな?」とセンター長からあり、「ありがとうございました」と答えました。

FTCは並大抵の強さではないことがわかり、FTCを叩くには戦闘技術ではどこにも負けないものを作り上げなければならないことを理解しました。

この時から、「40連隊に戦闘技術の負けはない」これを合言葉にすることに決めました。

 
≪次のブログも参考にしてお楽しみ下さい≫
 
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2 Comments

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