陸上自衛隊の競技会は部隊の戦闘力を向上させるものか

陸上自衛隊の競技会は部隊の戦闘力を向上させるものか

 

 

昭和の陸上自衛隊が置かれた厳しい環境

 

昭和の自衛隊にとって、競技会はなくてはならないものでした。昭和の時代、自衛隊は、日本社会へ影響を与えず、日本社会から影響を受けないようにひっそりと問題を起こさないように防衛力整備を続けていました。窃盗・傷害などの事件を起こすと、まず、自衛隊を退職させ、「元自衛官」の身分にして現役自衛官が起こしたものではないというように組織を守っていました。

昭和50年代後半でも、自衛隊、特に地域に密着して存在している陸上自衛隊は、まだ、「税金ドロボー」と言われている時代でした。

日本社会を学校の体育館に例えると、陸上自衛隊は、体育館の隅の方で社会に遠慮し、目立たないように存在している日陰者のように生きている存在でした。

 

 

昭和の陸上自衛隊に必要な競技会

 

訓練は、旧軍の人達が残っていて装備は揃っていませんでしたが、実戦的な訓練を積み上げていました。日本社会の関心もなく、誰も見ていない演習場で隊員は、黙々と厳しい訓練に汗を流していました。

日本の独立と安全ために日々頑張っているのに、日本社会は、全く関心や期待を示さず、存在悪のように扱われる状況でした。この環境で、明るく、腐らず、モチベーションを維持していくことは、至難の業です。

この状況の中で腐らず、健全に生き抜くために重要な位置づけにあるのが、競技会でした。

競技会は、クローズした陸上自衛隊内で、世間とは全く関係なく行うことができ、競い合うことによって戦いに必要な闘争心を高めることができます。

連隊同士で強さを競う師団の銃剣道競技会では、選手だけでなく、多くの隊員が体育館に集まり、〇〇連隊と書いてあるぼりを何本も立て、同じ色の帽子をかぶり応援します。

隊員全員の「ワッセ、ワッセ」と力の限り出す応援の声は、体育館全体を揺らし、異様な盛り上がりの空間を作り出すほどです。

まるで、戦国時代の合戦状態の様相です。

勝利した連隊は、あたかも戦闘に勝利した勝者として盛り上がり、「勝どき」を連隊全員であげ、喜びを共有します。

モチベーションも闘争心も競技会によって高揚することができます。

競技会は、「銃剣道」だけではなく、「持続走競技会」、「格闘競技会」、「射撃競技会」から始まり、食事を作る速さと美味しさを競う「炊事競技会」、「ラッパ競技会」等々、多くの隊員がどれかの競技会で活躍できるように設定されます。

 

 

現在の陸上自衛隊に競技会は必要か

 

現在、自衛隊に対する日本国民の評価は高く、災害発生時の活動や海外での活躍がメディアで毎日のように報道されています。

昭和の時代、数か月に1回のペースで新聞に載る記事は、窃盗などの服務事故で「元隊員」として扱われていたのとは、180度変わっています。

現在は、体育館の隅でひっそり暮らしている状態から、ステージ上で常にスポットライトを浴び注目される状況になっています。

また、北朝鮮のミサイル・核実験、日本への攻撃意思の表明や中国の南シナ海における影響度の拡大、テロ攻撃など、今そこにある危機の存在がクローズアップされています。

大きな環境変化の真っただ中の陸上自衛隊は、新たな部隊を九州地区に作り、必要な人員を移動させ、新装備導入訓練の実施や国際貢献活動に派遣する部隊の訓練などやるべきことが目白押しの状態です。

このため、部隊を強くするための練成訓練の時間が十分に確保できない状態になっています。

情勢は、陸上自衛隊の競技会の役割、必要性を見直しを迫っているといえます。

 

 

安易な方法として競技会を選択

 

競技会には、モチベーションの維持の他にも利点があります。

何かを短時間に広め、所要のレベルまで引き上げるのに競技会は非常に有効であるというところです。

競技会の選手を選抜し、選手層の厚みとレベルの底上げのため、部隊では競技会の前に競技会を開きます。
例えば、連隊対抗の競技会がある場合、連隊は競技会前に中隊対抗競技会を計画し、中隊全体で競技会の練習を行わせて選手層を厚くするとともに、連隊全体のレベルを上げます。

各中隊は、朝礼前の間稽古の時間全員で競技会の練習を行い、競技会の訓練時間を増やし、中隊一丸となって競技会へ突き進む「団結」を強化していきます。

普段の訓練とは異なり、競技会に勝利を得るために、各中隊は勝つための作戦を練り、中隊全体のレベルアップのための練成を進めていきます。

通常の訓練では、上から統制されないとやらない受け身の状態ですが、競技会となると統制されないことは工夫の余地があるものと、前向きに積極的に捉えて行動します。

受け身で言われたことをやっている部隊・隊員が、やるべきことを競技会化することにより積極的にかつ、創意を凝らして動くため、幹部は安易になんでも競技会にしてしまう傾向があります。

幹部は、競技会にして陸曹以下に丸投げしても、部隊は団結力が高まり、事故が抑制され、自動的に練成が進んでいきます。

幹部が口を出すと、かえって煙たがられます。
幹部が部隊の訓練に顔を出さなくなる一因にもなっているといえます。

中隊対抗競技会では、選手以外の隊員全員が中隊の威信をかけて応援を行います。隊員は積極的に行動し、部隊の団結力も高まり、勢いがつきます。

中隊は、中隊対抗競技会の前に、小隊対抗競技会を行います。

 

 

訓練の阻害となる競技会

 

師団で「競技会」を行うと示されると、師団内の各部隊は、連隊(大隊)内競技会として中隊対抗競技会を行います。中隊は、小隊対抗競技会を行うため、競技会の半年前から競技会の練習の比重が大きくなります。

競技会が近くなると選抜選手と次の世代を担う選手は、一日中競技会の練成を行います。更に、日ごろから練成していないと勝てないとなると選抜選手や強化選手は、訓練や演習へ参加せず、一年中競技会の練習をしている状態になります。

大きな競技会が毎年3つあれば、連隊では常時150人近くの隊員が競技会の練習を一年中行っている状態になります。

部隊の名誉と強さを競う競技会に勝利するため、各部隊は地道な戦闘訓練よりも競技会を優先します。

この結果、部隊がもっとも行わなくてはならない練成訓練は、競技会に人を取られてしまい訓練に必要な人員が集まらなくなります。
部隊は、余った人員を「整備」と称して一日中装備や備品の整備を行わせます。

 

 

競技会の見直し及び練成訓練の見直し

 

「競技会」を師団が年間3~5個計画した場合、部隊は一年中競技会中心の隊務運営をすることになります。

指揮官は、部隊の練成責任があります。

部隊長は、練成訓練によって小部隊から、中隊、連隊全体の戦闘まで練成し、有事任務達成できる部隊を育成しなければなりません。

競技会の見直しと実戦に通用し、対応すべき内容が増加し、質が向上している自衛隊の任務を達成できる部隊を育成するため、練成訓練の在り方、評価の仕方、実施要領を見直す時期が来ています。

この長く続く問題に結論を出す必要があります。

 

 

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試合に負けるのは選手が悪いのか、監督コーチが悪いのか
 
歩哨のレベルを見れば強さがわかる
 

 

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40連隊に戦闘技術の負けはない: どうすれば強くなれるのか!永田市郎と求めた世界標準
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