戦術を学ぶ時、必ず「思考過程」という用語が出てきて、その重要性の説明を受けます。
状況判断を間違うことなく、的確に行うために必要な思考の方法だからです。
思考過程は、陸上自衛隊の戦術で任務を達成するための思考の方法として、徹底的に教え込まれます。
戦術における思考過程の概要は、部隊の作戦目的を具体的に導くため任務の分析をおこない、達成しなければならない目標を明らかにします。
次に、作戦に影響のある気象と地形、敵の状況を分析することによって、目標達成のための選択肢を導き出します。
選択肢に敵の予想される行動と対戦(シミュレーション)させることによって戦闘様相、選択肢の長所欠点を明らかにします。
そのシミュレーションの結果に基づき、選択肢の優劣を比較し、我が部隊がとる行動を決定するというものです。
文章化するだけでも、戦術における思考過程は、手間と時間がかかることがわかります。
ここまで分析・検討をして考え出された行動は、隙が無く確実に任務を達成し、負けることのない作戦を可能にするため、戦術教育を通じて幹部に叩きこまれます。
この思考過程を幅広く深く考えることができる幹部は、能力が高いといわれます。上級幹部になれば、高いレベルが要求されます。
陸上自衛隊では、思考過程を重視して仕事を進めていきます。
ほとんどの業務において、思考過程はどのようになっているかについて確認されます。
業務における思考過程の内容は、今おかれている状況、ライバルはどのような行動をとるのか、それに対する対応策は何があるか、問題点と対策のフロー(流れ)を記述し、考え方が間違っていないか、漏れがないかを確認して進めていきます。
初級幹部から上級幹部に至るまで思考過程より全員の頭を合わせ、漏れがないかを確認するのが通例です。
そのため、思考過程という言葉は、幹部全員の標準的に使用される用語であるともいえます。
しかし、思考過程は、戦術や戦闘訓練、作戦計画の作成など、限定された場面で使用していても、なかなか身に付いていきません。
普段の何気ない業務で使用することによって、実戦に使える思考過程を身に付けることができます。
たとえば、調整を行う時に思考過程を活用する方法があります。
調整は、身体や心を整えるという意味がありますが、相手と調整するということは、自分が考えていることを納得してもらいその方向に進んでもらうために行うものです。
こちらの案を説明した時、賛成し承認してもらえれば問題はありません。
保留にされた場合、反対された場合どうするかについて、進めるためのフローを作ることによって、必ず目的が達成できるようにします。
上司へ報告し、上司から相手の上司へ話をしてもらう。
相手に影響力のある人に力添えをもらう。
資料の論点となったところを整理して次の調整機会を設定する。
飲みに行く。
このようにどのような反応にも対応できるようにフローを作る練習します。
最初は、紙に一つ一つ書かなければ整理ができませんが、何度も繰り返し作成していると基本パターンがあり、それを事柄毎に少し変化させればいいことがわかってきます。
そのレベルに到達すると、頭の中にフローが浮かび上がってくるので、重要なフローをメモに取る程度で済むようになります。
さらに電話での対応でも、頭の中にフローができているので、粘り強く、次につながる方向へ進めるようになります。
このような使い方を日常の業務で使用してみると知らず知らずのうちに、思考過程が身に付いていきます。戦術における思考過程も当然質が高くなり、戦術能力の向上になります。
注意する点は、当初、何も準備せずに思っていた調整をすることは難しいので、面倒でもフローを作ってから調整を開始するようにすることです。
できるようになったのを確認できてから次の段階へ進むことです。