勝負に勝つためには何が重要かを考えて厳しい訓練を積み上げていきます。個人の勝負では、意思を固め、自己の限界を追求することにより勝利がぐっと近くなります。チーム戦で1個のチームに5種類以上の機能が組み合わされ、人数も300名近くなると、勝利のための重要要因を何にするか、要素が多すぎて決めにくくなります。
各機能毎の訓練をそれぞれ目標レベルまで向上させ、次に各機能を組み合わせて行う総合訓練に移行し、問題点を修正しながら仕上げていくのが一般的です。
この練成訓練を如何なる視点と狙いをもって実行するかで勝負が決まります。野球の監督の必要性と役割と似ています。
総合戦闘射撃競技会は、毎年、師団で射撃が一番強い連隊を決める大会です。1個普通科中隊の小銃、機関銃、対戦車弾、対戦車誘導弾、81ミリ迫撃砲、120ミリ迫撃砲、戦車砲、155ミリりゅう弾砲の部隊を中隊長が指揮をし、努めて戦闘に近い状態で射撃を行い、速度と精度を競います。
それぞれ命中した弾数が加点され、規定時間を超えると遅れた時間に応じてマイナス点が加算された総合点で順位を競います。
多くの火器と射撃部隊があるため、各火器毎の訓練とチームとして練成しなければなりません。
普通科連隊には装備されていない、戦車砲と155ミリりゅう弾砲は戦闘の時、40連隊を支援する部隊がチームに加わります。
師団で総合戦闘射撃に勝利すると、戦闘に強く、よく訓練されている部隊であるという称号を得ます。
競技会を行う演習場での訓練を如何に確保するかの勝負で、不平等を防止するため、師団は、各連隊均等に演習場を配分します。
各連隊は、熾烈な勝負を勝ち抜くため、厳しい訓練を行い、命中精度向上のための研究や多くの工夫を積み上げます。コツの積み上げが技術に直結するので、経験豊富なベテランの活躍が光ります。
40連隊は、勝ち目を「競技会まで、他部隊の3倍実弾射撃訓練を行う」、「崖っぷちで勝負をする」、「競技会当日に体力とモチベーションを最高レベルにまで引き上げるための休養をとる」としました。
「競技会まで、他部隊の3倍実弾射撃訓練を行う」は、他師団で余剰の弾薬を調整してもらい弾薬を3倍確保します。
小銃弾では、機関銃弾の余りがあれば、ばらして小銃射撃に使えます。弾だけでは射撃ができません。射撃をするための射場の確保が必要となります。
一人、2000発を撃つことを目標に、遠くの射場へ行ったり、土日にあいている射場を使用したり、屋内射場も3時間でも空いていれば使用をして撃ち込みをします。このため、射場の取り易い土日に休みなく訓練を何カ月も行います。
「崖っぷちで勝負をする」は、優勝以外、射撃部隊は恥ずかしくて小倉駐屯地の正門は通過できないので、近傍の小演習場でしばらくテントを張って野営訓練をします。
最初は、負けた時の事を考えてたまらないなと思いますが、この感情がなくなるまで訓練できるかというところが、本当の狙いです。
負けたことを考えている意識レベルから、最高の訓練を積み上げたので、あとは練習通りの動作をのびのびと発揮し、結果は後に付いてくるという意識レベルを作り上げます。
動揺や気持ちの迷いもなくなり、「勝たなければ、勝つんだ」、「負けてはいけない、負けてはいけない」というような身体がガチガチの状態になるのを防止します。
人間は、集中を続けて、休みなく頑張れるのは、3か月が限度です。これ以上引っ張ると極端にモチベーションが下がり、疲れやすく集中力が低下します。こんな時に、服務事故や訓練事故が発生します。
訓練期間に、どこへどれだけ休養を入れるかについて計画をし、訓練状況に応じて微調整を加えます。休養後にモチベーションと集中力がどの程度になるかを確かめながら、訓練をきつくするか、更に休養をどこかに入れるかを担当中隊長の分析に基づいて慎重に設定します。
1か月前に最後の休養期間を何処に設定するかが非常に重要となります。この休養の入れ方により、隊員の上司や連隊本部への信頼感の醸成や体力回復、集中力の維持に直接影響するからです。
休養間に、各人が必要ならば休養にしたり、感覚を維持するため30分ほど射撃予習をしたりして過ごすようになると、隊員個々も自己コントロールをして微妙な調整を加えながら当日までの準備を積み上げていけるので、極めていい状態に仕上がります。
総合戦闘射撃競技会から、休養の取り方が非常に重要であること及び人間は生身の生き物であることを学びました。
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