第3部は、作戦運用、教育訓練に関わることや災害派遣、その他諸々なことに対応します。
たとえば、鹿児島県で対空射撃を実施している時のことでした。視界が悪く射撃ができない状況から、気象が回復し間もなく射撃が開始できるという状況でした。
そんなタイミングで演習場の施設の中に設置した作戦室の電話が鳴り、出てみると防衛班長からでした。
防衛班長からの直接の電話ということは、当然何かが発生したということです。訓練班長が阿吽の呼吸で射撃開始間近の全般統制を私のかわりに行います。
電話に出ると「宮崎県の海岸へ打ち上げられたクジラの運搬依頼が自治体からきています」という内容でした。
なぜクジラの運搬を陸上自衛隊が対応しなければならないのか、疑問に思い確認すると、大型のマッコウクジラは重量があり過ぎて大型重機でも動かすことができないということでした。
そんなことはないだろうと思いマッコウクジラの重量を聞いてみると、38トンということでした。
自治体は、陸上自衛隊の戦車回収車により対応してもらいたいとのことでした。
これを民間に依頼すると数千万円の経費がかかるということもあり、何とかならないかというのも依頼の理由のようでした。
その他にも野焼きがあります。阿蘇の山々は草でおおわれた状態のため、早春の頃になると野焼きを行います。
枯れ草へ点火して広大な土地の枯れ草を焼くと、阿蘇一帯が真っ黒になります。害虫の駆除、焼けた枯れ草が肥料になります。
これは、春の風物詩にもなっています。しかし、枯れ草に着火すると風が強いと物凄い速さで延焼していき、周遊道まで火が回ったりするので、地域の消防と連携して消火活動を支援します。
演習場整備を行っている連隊長から電話が入りました。「演習場で火災が発生し延焼地域が拡大している」とのことなので、「大丈夫ですか。ヘリによる消火を行いますか」と聞いてみると、「こちらの方で何とかなるので、大丈夫だから」ということでした。
少し経つと、別の連隊が全力で消火活動を手伝っているという情報が入りました。
火災は、風向きによっては民家の方向へ進んでいくかもしれないという内容でした。
「連隊長の話と全く違った大掛かりな対処をしているではないか」「しかも民家の方へ火災が広がる可能性がある」「2個の普通科連隊の隊員が全力で消火活動と延焼防止のための防火帯を切っている」とのことでした。
すぐに飛行隊へ消火器材を積載して、演習場へ向かい消火態勢をとるように指示を出しました。
方面へ大型ヘリについても状況によっては依頼する旨を伝えました。
自分も火災の状況を自分の目で確認する必要があると考え、小型偵察ヘリで現地へ向かいました。演習場上空に来ると、目に飛び込んできたのは、演習場の2/3が黒焦げになっている情景が広がっています。
「大変なことが起きていたじゃないか! 連隊長の話と全然違うじゃないか」という状況です。
上空から偵察してみると、消火によって火災が鎮火したのではなく、燃えるものを全部燃やして燃えるものがなくなり鎮火した状況であることがわかりました。
中型ヘリが消火のため態勢をとっているので、煙が出ているところへ数回消火活動を行い撤収するように話をしました。
電話で聞いたイメージと現地の状況がここまで異なる体験は初めてでした。油断はできません。
南九州は、春になると毎週、山火事が報告され、対応するかどうかを判断する状況が続くからです。
師団司令部第3部長の仕事は、師団長の近くで多くの事を学ぶことができ、師団長の右腕です。
責任も大きいですが権限も大きく、様々な状況に師団が全力で対処する核となる幕僚です。
やりがいがあり、ダイナミックに行動できる素晴らしい職務でした。もし3部長ができる機会がある人は、チャレンジしてみて下さい。
3部の訓練班長、防衛班長、運用幹部、運用陸曹になるチャンスがある人も、お薦めの勤務場所です。
本書は、作戦幕僚の日常の一端を紹介させて頂きました。